第329話 介護問題で九尾なのじゃ
「近年、老人が老人を介護する、老老介護の問題が深刻化してきています。政府は介護職に従事する人たちの支援を計ると共に、高齢者の健康増進――」
夕方。仕事を終えて、飯を食いながらの一時。
なんとなしにテレビを見ていると、そんな話題が流れて来た。
老々介護ねぇ。
老人が老人の世話をする。親か、それとも配偶者か、なんにしても、自分の身体も辛いのに、無理を押して相手の世話をしなくちゃならない。
子供や親類縁者はなにをやっているんだと言われてもそこは人生いろいろだ。
やんごとない事情というものが世の中には存在する。
細かいことを言ったところで仕方ない。
世の中そういうものでしょうと割り切ることしかできない。むしろ政府が問題として取り上げてフォローアップしてくれるだけ、若年層のワーキングプアや現役労働者の労働環境より恵まれているだろうと思う。
それでも現場は現場で大変なんだろうけど。
「のじゃぁ、不安な話なのじゃぁ」
「……加代さん、アンタ、不安に感じる要素なんてあるの?」
不老不死の九尾娘ですよねぇ。
あれですよね、もうちょっと身長低くて、もうちょっとロリロリしてたら、昨今話題になった〇リバッバ専門漫画雑誌に出れるタイプのお狐ですよね。
それが老老介護の心配とか……。
「宇宙消滅の瞬間まで生き続ける宿命を背負いし究極生命体の分際で、介護がなんだと心配するのは何か間違っているのでは?」
「のじゃぁ、またそんな人をカー〇かなにかのように」
「噴火で宇宙に放り出されて、死にたいけど死ねないのに宇宙空間を飛び続けることになった時何を考えるか検討する方がよっぽど有意義だと思いますがね」
きっとあぶりゃーげのことを考え続けているんだろうな、こいつのことだから。
なんてことを思いつつ緑茶をすすると、加代の奴がいつになく深刻な顔をした。
のじゃぁと味噌汁をかき混ぜるその手はどこか元気がない。
本気で老々介護を心配しているらしい。
「……えーっと、加代さんのお母さんは普通に元気だよね?」
「ママは殺しても死なないのじゃ。殺生石になってもまだぴんぴんしているような狐なのじゃ。心配無用なのじゃ」
「あっ、はい、そうでしたね」
「のじゃ。けど、ママの配偶者さんのことを思うと憂鬱になってしまうのじゃ」
ママの配偶者。
というとアレか。殷と西周のラストエンペラー、鳥羽の人とかか。
うぅむ、確かに、どれもこれもあんまりこうパッとした死に方じゃなかった気がするな。
というかあれだな。
老後というか死に際というか、そっちの心配だな。
「将来、桜がどうなるのかと考えると、今から不安で不安で」
「おい、ちょっと待て、この小市民桜さんが、どこをどうやったらお前を不安にさせる死に方するっちゅうねん」
俺のような短気で粗暴でおまけに人付き合いの悪い人間が、そんな歴史に名を残すような死に方をするとは思えない。
普通にベッドの上で死ぬでしょうよ。
病院か自宅かはともかくとして。
その際に、加代に介護の迷惑をかけるかというと――。
かけるかもしれない。
俺は人間。
彼女は九尾。
生きている時間が違うのだ。
それは確かに考えれば憂鬱にもなってくる。
「のじゃ。人間は死から逃れられない生き物なのじゃ。それと好き合うてしまった時から、ある程度は覚悟はしていたのじゃ」
「……加代」
「任せるのじゃ。ケアマネージャーの資格もちゃんと取ったから、最後の最後まで、一緒に居ることができるぞ。安心して冥途に送ってやるのじゃ」
それは実にありがたいことだ。
だがな、加代。
そんな遠い未来のことを考えるよりも、もっと身近にある幸せを考えようぜ。
お前にとっては短いかもしれないが、一緒に居れる時間を大切にしていこうじゃないか――。
というか。
「まぁ、どうせお前の事だから、二日でなんかやらかしてクビになるんだろ」
「のじゃぁ!! 失礼な!! せっかく
「へーへー」
ケアマネージャーとか、老々介護とか。
そんなのとか、どうでもいいから。
めいっぱい一緒に居ればいいだろ。
というかいさせてくれ。
「でなきゃ今の仕事に就いた意味もないしな」
「のじゃ?」
「なんでもねーよ。ったく、いいよな不老不死ってのは呑気なもんでさ……」
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