第331話 真夜中のターン・〇・ターンで九尾なのじゃ

【補足】


 この作品は2018年5月17日に書いております。


◇ ◇ ◇ ◇


「……まじか、秀〇死んだってさ。脳梗塞からの心筋梗塞とかこっわ」


「情報遅くねえ? それ、昼頃ツイッターで流れてたぞ?」


「うっそ、マジで!? ショックだわ、僕、まさしく世代だったんだよね……」


「課長の青春っすか」


「そうそう、寺内〇太郎一家とか見てたから。まだ若いのに惜しい人失くした」


「不摂生な生活でもしてたんですかね?」


「……不摂生といえば、いったい、いつになったら帰れるんすかね、俺たち」


 隣の後輩。

 向かいに座る前の会社からの同僚。

 そしてその島の突き当りに、ちょっと大きなデスクに座って涙ぐむ課長。


 そう、俺たちは絶賛デスマーチ中だった。


 デスマーチってなに、って方々は、そういうWEB小説でも読んでください。

 つまるところ絶賛仕事でトラブってるという状況です。深夜残業の刻限をブッチして、課長の裁量で働いている訳ですが、まったく終わりが見えてきません。


 それもこれも、この前の会社からの同僚アホが、中途半端な仕様変更を受けちゃったからなんだよな。これくらいならできるだろうと、技術調査もせずに先方からのリテイク受けたら、ドツボにはまってやんの。


 やーいやーいとからかって帰ろうとしたら、むんずりと腕を掴まれた。

 まぁ、そんな訳で――再就職の恩人にすがられては仕方ない。俺は急遽、彼のプロジェクトの臨時プログラマーとしてキーを叩いていた。


 納期は明日の朝一。

 まぁ、頑張ればなんとかなるだろう。


「こんな生活続けていたら、俺らも遅かれ早かれってもんだよな」


「言うな桜。頭脳労働者が、頭詰まらせて死ぬんだから、本望だろう」


「全然本望じゃねえーっての!! 笑えん!!」


「みんな、無理しないで、仮眠は適度にとってね。夜食は冷蔵庫に入っているから。あと、明日は朝一から有給取って、すぐに家に帰るように。分かった?」


「……まぁ、ホワイト企業の体裁を整えるところだけは立派と言っておこう」


 深夜残業するに当たって、いろいろと根回しをしてくれた課長。

 最近、ちょっと大変な仕事を回されることが多くなってきたが、まぁ、こういうフォローがあるから、まだマシな方である。


 前の会社なぞ、知るか、やるのが当たり前だろみたいな上司が多かったからな。

 ここまで気を遣ってくれるのは、やはり人徳だと思う。

 社外的な人脈もいいし、このまま心さえ壊さなければ――いいところまで行くんじゃないかなこの課長。


 そういう意味では上司には恵まれてるのかもしれない。


「桜ァ、あとでエナドリのオリジナルカクテル作って遊ぼうぜ」


「遊んどる場合かー!! 誰のせいでこうなったと思ってんだよ!! 課長を少しは見習え、この駄従業員!!」


「ひでぇなー、まぁ、俺の見積もりが甘かったのは確かだけどよー」


 あー、と、前の会社からの同僚が肩を鳴らして立ち上がる。ふと、彼の視線が――メカメカしい格好をした女の子のフィギャーに向いた。


 こんな時まで現実逃避か。

 三次元に入って、そのままバグを直して来いよ――。


 なんて思った時だ。


「ところで、課長的には、ターン〇ガンダムはどうなんですか?」


「〇!! 伏せる所間違えてる!! アカーン!!」


「やっぱり、無印、〇ガンダムと比べると、どうしても認められないよね。宇宙世紀を黒歴史化するなんて、あり得ないよホント」


「だから〇!! アカン!! それ、〇で隠すところ間違えてる!! もっとこう核心を突くようなところをぼやかして!!」


「俺、機動武闘伝〇ガンダムとか好きなんですけどね。やっぱあれも?」


「うぉい!! おかしいやろ!! 〇ガン言うところやろ、そこは略して!! なんで機動武闘伝入れた!! 隠す意味が薄れるでしょ!! ってバカぁ!!」


「宇宙世紀以外は認めない。宇宙世紀でも、最初の二作と――逆シャア、UC映画版くらいかな」


「えー、俺、めっちゃガンダム〇EEDとか見てましたよ」


「おっ、後輩くんは種世代か。しかし、種はない。絶対にない」


「いやいや、モビルスーツのデザインは格好いいと思うよ。けど、ねぇ……アンタはいったいなんなんだーって、ほんと、視聴者としても心の底からこっちも叫びたくなったよ」


「そうそう略して、もっとこうぼかして!! そんでもって、また隠すとこ間違ってるから!!」


「けど、俺らより若い世代っていうとなんなんだろ」


「〇ルガ、〇カ――やっぱ、ガンダム〇クザじゃねぇ?」


「そうだね、いいところを〇で隠したね。分かってきたね。ちゃーんと多方面にご迷惑をかけないように伏字を使えたね。相変わらず肝心の所はモロ出しだけど」


「まぁガンダムは男の浪漫だからなぁ」


「女には分からない世界だからなぁ」


 その時、ふと、サーバールームの扉が開いた。

 中から出て来たのはそう――ダンボールを纏った加代さん。

 俺たちの為に、サーバの定期メンテを引き延ばしてくれていたのだ。


 その胸のダンボールにはガンダムの文字。


わらわが、わらわがガンダムじゃ!!」


「ガンダム〇〇!!!!」


 もう少しだって隠せない。仕方ない、だって、深夜テンションなんだもの。

 なんにしても、西城秀樹さんのご冥福をお祈りします。

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