第305話 水道代で九尾なのじゃ

「のじゃぁ。光熱費・水道代、なんとかもうちょっと抑えられんかのう」


「今でも結構節約してるだろう。というか、どこまで節約すれば気が済むんだよ」


 とはいえ、家計簿を前に深刻な顔をする加代さん

 かれこれ一時間ほどこの調子である。


 流石に放っておけないなと、俺は彼女の隣へと移動した。


 ふむぅ。

 家計簿の記載を見ればこうだ。


 電気代1万円とちょっと。

 ガス料金5千円とちょっと。

 水道代5千円とちょっと。


 携帯代とネット代は、今のご時世だから仕方ないとして。


「電気代1万はきついなぁ」


「のじゃぁ、今年は寒かったからのう。エアコン使いすぎてしまったのじゃ」


「ガス料金5千円もちょっと多いよなぁ」


「こっちものう。食器を洗うのにお湯は使うし、お風呂もついついお湯を足してしまうしのう。仕方がないのじゃ」


 四季のない世界に住んでいる訳ではない。

 冬になったらどうしてもガスを多く使ってしまうのは仕方がない。

 電気代は夏もだ。季節の流れに逆らうのが悪いのかもしれないが、そうしないと人間は生きていけないのだから――あぁ、無情というものである。


「確かに今年は寒かったからなぁ」


「のじゃぁ。ほんにのう。身を寄せ合って暖を取りたいくらいであった」


 まぁ、実際取っていたんだがな。主に寝る時とかに。

 毛が出るからとか言ってられない。だって寒いんだもの。使えるモノは使う、加代の九尾をフル活用して越冬させていただきましたともさ。


 まぁ、尻尾以外の場所から暖を取ったりもしたり――。


 うぉほぉん。


「それにしたって、水道代5千円は高いな」


「のじゃ、そうじゃのう」


「なんでこんなに水を使ったんですか――加代先生!!」


「なんでって言われても。シャワー浴び過ぎたのじゃ?」


 誤魔化しついでに、俺は加代に水道代の話題を振った。

 電気代、ガス代が冬に高くなるのは仕方ないとして、水道代が高くなるのはおかしいだろう。どうしてそんなに料金が高くなったのか、納得がいかない。


「何かあるんだろう――さては、風呂の水を流しっぱなしにしたとか」


「そんなもったいないことせんわ!!」


「んじゃあれか、冬毛流すためにシャワー使い過ぎたとか」


「なんでそうなるのじゃ!!」


 え、胸毛とか、脛毛とか剃って、それ流すのに使ったりしない。排水溝にどっちゃり溜まった毛を見て――俺のギャランドゥとかそういう気分になるもんじゃないの。


 じとりとした目でこちらを見てくる加代さんの目が怖い。

 いかん、どうやらデリケートな内容に足を突っ込んでしまったみたいだ。


 誤魔化すために余計なことなぞいうもんじゃないね。とほほ。


「のじゃぁ。とはいえ、確かに水道代使い過ぎなのじゃ」


「ガス代と絡めて、寒いからシャワーとか使いすぎたかね」


「その線が濃厚じゃのう」


「うーん。これなら、シャワーから風呂にした方がいいかもしれないな」


「そうじゃのう。そっちの方が安上がりで済むかもしれんのう」


「ついでに一緒に入るか!! なんつってな、がはは!!」


 のじゃぁと顔を真っ赤にする加代さん。

 え、なに、なんなのその反応。一緒に入ったら何かまずかった。


 というか、割と普通に一緒に入って――。


 うぉほぉん!!


「まぁ、そのなんじゃ。節約も大切じゃが、そこはそこ、色々とプライベートを考えて折り合いをつけるのじゃ」


「……まぁ、その、そうなのじゃなぁ」


「……水の量が少なくて済むから、悪いアイデアではないとは思うのじゃ」


「……そう言ってくれると、ちょっと気が楽なのじゃぁ」


 のじゃぁ。

 最近なんか俺が言うことの方が多くなったような気がするなぁ。

 俺ももうちょっと、脇をしっかり締めないといかんなぁ。


 うぉほぉん!!

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