第279話 ダークチョコレートで九尾なのじゃ
甘いもん食べたい。
そう思いながら腹を摘まめば、その甘いもんが化けた肉の塊が、ぷにぷにといい音を立ててくれる。
この育て上げたぜい肉を、更に増やそうというのか、桜よ。
お前はブロッサムのくせにハートさまにでもなる気なのか。
世紀末はもうだいぶ先なのよ。
とまぁ、権利上難しい話はこのくらいにしておいて。
お菓子は敵である。
それは、男であっても、女であっても、変わらない。
あの小さな塊に、体の余分な部分を育てる可能性と言う名のカロリーが濃縮されているのだ。
繰り返し、何度でも言おう。
お菓子は敵である。
お菓子は敵である。
とはいえ、やっぱりたまには甘いモノを食べたくなるもので。
「どっかに食べても太らない甘いモノとかないもんかね」
「のじゃ。健康食品とかにしておくのじゃ。ブランのウェハースとか」
「OLか!!」
うちの会社でも大人気、玄米ブランのおかしシリーズ。
だいたい、入荷したら二日前後でなくなってるんだよな。そいでもって、隣島の主任格の女の子が、もしゃもしゃ食ってるのをよく見る。
そして、違うんだ、そういうのじゃないんだ。
俺はそういう味気ないのじゃなくて、もっとがっつり甘いものが食べたいんだ。
「のじゃ、キシリトールガムなどもいいのではないかのう?」
「だからぁ、そうじゃないんだって!! まっとうに甘い奴が食べたいの!! 背徳的な甘いものが食べたいの!!」
あんことか、チョコレートとか、クリームとか。
そういう、あ、これ、直で脂肪に変換されますわと、分かり切ってる甘いものを摂取したい欲望に駆られているのだよ、俺は。
と、嘆いてみた所で始まらない。
のじゃぁ、と、こたつに入ったまま加代が声を上げる。
そして視線をふと天板から逸らし、もぞりもぞりと蠢いたかと思うと、彼女はこたつの横におかれている籠から夏みかんを取り出した。
食べるかと、言いたげに差しだされたそれ。
うむ、魅惑的な甘味ではあるが――俺は首を横に振った。
だから違うのだ。
そういうフルーティなのともまた違うんだ。
あんことか、チョコレートとか、クリームとか、そういうの。
人の欲望のためだけに生まれた甘味を食べたいの。
「つっても、チョコも、あんこも、どっちもカロリー激高だからな。口にしようものなら、デブまっしぐらよ」
「のじゃ。ちょっとくらいは大丈夫ではないのかえ?」
「そのちょっとの油断が駄目なんだよ。いいか、甘味は麻薬と同じだ。これくらい大丈夫だろうと思って摂取すると、どんどんとその摂取量が多くなり――」
「いや、それは流石にお菓子屋さんに失礼なたとえなのじゃ」
いやけど、実際止まらなくなるだろう。
事実、止まらなくなったし。
俺はそれで一時期、結構やばいくらいに体型が変わった苦い思い出があるのだ。
まぁ、食ってるもんは甘かったんだけどよ。
なんつってな。
「世の中には幾ら食べても太らん連中も居るのに、不公平にできてるよなぁ」
「のじゃ!! 生まれの不幸を嘆いたところで何も始まらないのじゃ!! 人生とは、そういう不幸を乗り越えて生きていくからこそ美しいのじゃ!!」
「おう、食べ物の話や。人生の話やないで」
まぁ、実際、言った所で仕方ない。
世の中には、食っても太らない、そんな都合の良いお菓子は存在しない。
その現実を受け止めて上手く甘味と付き合っていくしかないのだ。
甘味を食って昼食を減らすか。
それとも摂取したカロリー分運動するか。
はたまた、食わないことを選択するか。
「昼飯ちゃんと食べたいから、やっぱ諦めるしかないか」
「のじゃ。普通に運動すればいいだけなのじゃ。というか、基本、運動した方が健康にはいいのじゃ。いっぱい食べて、いっぱい運動、これが大切なのじゃ」
「動きたくないないでござる!! 働きたくないでござる!!」
「のじゃぁ……。今日はなんか、パロ多めなのじゃ。ちょっと自重するのじゃ桜よ」
と、その時だ。
たまたまつけていたテレビから、ふと、ホットな話題が流れて来た。
『今話題のダークチョコレート。カカオ配合率70%以上のチョコレートなんですが。なんと最近、このチョコレートにダイエット効果があることが』
「……ほう」
「……のじゃぁ」
◇ ◇ ◇ ◇
俺は食べた。
ダークチョコレートを食べた。
ダイエット効果を期待して食べた。
カカオ配合率が高ければ、ダイエット効果で相殺されるから大丈夫。
そう信じて、俺はカカオ80%のチョコレートを、これでもかと喰らった。
「でぶぅ……。で、なんで、こうなるでぶぅ……」
そしたら案の定これである。
なんでだよ。
ハートさまでも、でぶぅ、なんて語尾使わないよ。
ひでぶぅ、は言ったけれども。
そうです見事にデブりました。
体重プラス5kgですよ。ちくしょうこの野郎。
「何事にも限度というのがあるのじゃ。毎日チョコレート五箱とか、どうかしてるとしか言いようがないのじゃ」
「……やはり世の中、甘い話はないということか」
「まぁ、苦いチョコじゃったから、控えめにデブるだけで済んだのかもしれんがの」
ほれ、ランニングいくぞ、と、加代がジャージ姿で俺を手招きする。
俺は黒いジャージの腰ひもをぐいとしめると、しぶしぶといった感じで彼女に続いて部屋を出た。
とりあえずそんな訳で、チョコダイエットは諦めて、まっとうに筋力増やしてダイエットする方向に切り替えることにしました。
トホホ。
ほんと、世の中そんなに甘くないね。
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