第239話 仕事中の息抜きで九尾なのじゃ

 皆さん。仕事中に息抜きはしていますか。


 仕事を効率的に行うためにも、適度な休憩・リフレッシュは必要です。

 一日中、パソコンに向かって作業をしていると、どうしても肩や腰に負担がかかってきます。一時間に一回は、机から立ち上がって、体を休ませてあげましょう。


 それと同時に目の保養も大事ですね。

 ブルーライト云々が叫ばれて久しい昨今。科学的な根拠は別として、眼精疲労を馬鹿にしてはいけません。

 ディスプレイばかり見ず、外の景色を見たりだとか、そういうのは大切です。


 まぁ、俺は画面の中のお姉ちゃんを見るんですが。


「おう桜ぁ。いくらパーティションで区切られてるからって、デスクでスケベ画像見るのはどうなのよ」


「こちらにも、やむにやまれぬ事情ってもんがあるんだよ。察してくれ」


 仕事の相談でもしに来たのだろう。

 前の会社で同期だった男があきれた顔をして俺を見ていた。


 いいだろう別に、これくらいの休憩。


 それに別に、アダルトなサイトを見ている訳じゃない。

 ちょっとしたグラビアアイドルの写真集のサンプルを見ていただけである。


 たわわんたわわんと、腕の中で実ったその胸を見ているだけで、午後からのやる気が満ちてくるのだ。

 なんの問題もないじゃないか。

 むしろこれで仕事の能率が上がるのだから、会社にとってもメリットがある。


 と、同期男がはぁと溜息を吐き出す。

 何か訳アリという感じだ。


「お前さぁ。会社で閲覧サイトのログ取ってるくらい、想像できるだろう?」


「そりゃなぁ。俺も一応この業界の人間だし」


「それでなんでそういうサイト見ちゃうかな」


「いや、従業員のそういうのに、いちいち反応してたらキリなくない?」


 社則として、プライベートなネットワークの利用は厳禁とか、不適切なサイトを見ないというのはよくわかる。

 よくわかるが、それに律義に応えるかどうかは別の話だ。


 俺は応えない。

 別にウィルスしこたま仕込まれた海外のアダルトサイトでも見ている訳ではないのだからいいではないか。


 と、また、ここで同期が溜息を吐き出した。


「俺は忠告したぞ。いいか、見るんじゃないって、忠告したからな」


「あん?」


「前の会社も小さかったが、この会社も小さい。つまり、それだけ、ってことだ……」


 どういうことだ。

 そう、思って首を傾げた瞬間だ。


 ドアバーン、という音と共に、サーバールームの中から突如として人が現れた。


 そう、もうおわかりですね。


「オキツネ、サイバー取締り委員会なのじゃ!! 今、この会社の中に、けしからんエロエロ画像を見ている不届き者がいるのじゃ!!」


「KAYOSAN!!」


 加代である。

 サーバールームからオキツネがまさかの登場である。


 精密機器の密集地、そして、ソフトウェア会社の心臓部分であるサーバールーム。

 そこに、全身毛まみれの上に、ただでさえ八本も余計に尻尾をはやしている、九尾なんて入れないでくれフォックス。


 そして、何やってんだ、フォックス。


「のじゃのじゃ!! アクセス解析の結果――使っているPC名は『LOVELOVEKAYOCHANFOX』なのじゃ!!」


「そんなPC名つけとらんわい!!」


さくりゃぁっ!! 会社で何を見ておる!! ちゃんとお仕事せんか!!」


 うっせえ。

 どこぞの同居狐の目が厳しくて、会社でもないとおちおちこういうの見れないからこんなことなってんじゃないか。


 察してくれよ、俺だって男なんだぞ。


 と、言ったところで、時すでに遅し。


「のじゃ!! さっそく会議室に連行して事情聴取なのじゃ!!」


「そんなご無体な!!」


「どうしてこんなけしからおっぱ――エロエロ画像を見たのじゃ!! わらわというものがありながら!!」


 お前じゃおっぱい成分が足りていないから。

 それを公衆の面前で言うと、なんというか流石に加代に申し訳なくて、俺は口を噤んで黙り込むことになったのだった。


 とほほほ。


「な、うちの会社は、こういうの煩いんだ。真面目だから」


「マジかよ……。先に言ってくれよ……」


「ほれ、早く来るのじゃ!! この助兵衛!! 浮気者!! 甲斐性なし!!」


 そんな怒らなくってもいいじゃないのよ加代ちゃん。

 俺だって、そりゃ、男なんだから、そういうのくらい見るさ。

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