第238話 弱キャラ無双で九尾なのじゃ

 今やってるソシャゲはこれ!!


 MGO(マジシャンズ・ゲート・オーバー)!!

 様々な特技スキルを魔法使いたちを操って戦う、正統派RPGゲームだよ!!


 と、定期的にツイッターで一日一回呟くことにより、ガチャ召喚に必要な石が一個手に入るのだ。それとログインボーナスで、週に石が三個手に入る。


 ちなみに、石は五個集まって、ようやく一体マジシャンもしくは装備が手に入るガチャが引ける。なので、ツイートを一日一回やって、ログインボーナスをしっかりつければ、都合月に8回はガチャが回せるのだけれど……。


「10連ガチャだと★5確定なんだよなぁ。キャラか装備かは分からないけれど」


「のじゃ? 桜よ、さっきからスマホとにらめっこして何してるのじゃ?」


 平日夜。

 食事を終えて、畳の上でごろごろと、うつ伏せに寝転びながら日課のソシャゲをやっていた俺。そんな姿を目ざとく見つけた加代が、ふいとスマホを覗き込んできた。


 親しき仲にも礼儀あり。

 たとえ同居人と言っても、勝手にスマホを覗き込むのはマナー違反な気がするが。

 まぁ、別に見られて困るようなものではない。


 ほれ、と、俺は加代の奴にソシャゲの画面を見せた。


「なんじゃゲームか。三十路にもなってゲームにお熱とは、あきれた奴よのう」


「うっせーなー、ゲームくらい別にしてもいいじゃねえか」


「しかもあれじゃろう。これ、課金ゲーとかいう奴じゃろう。お金かかる奴」


「そうだけど……基本無料だから。大丈夫だから」


 前々職の頃は、そりゃもう気でもどうかしたような廃課金プレイヤーだった。

 しかし、流石に今の職について給料も下がると、そりゃどうなのよと思うに至り、そこからはこうしてこつこつと、無課金プレイを続けている。


 いや、時々誘惑に負けそうになるが。


 やはり大切なのは、家族――もとい同居人との平穏な生活だ。

 趣味の出費は極力控えねば。


 なんていう俺の決意とは裏腹に、加代はじとりとした目で俺を見てきた。

 なんだ、いったい、何がそんなに不満だというのだ。


「……スロット・競馬といい、お主の破滅傾向の性格にはほとほと呆れるのじゃ」


「破滅傾向って。そんな言うほどのことか?」


「課金、してないじゃろうのう? 所詮、データはデータなのじゃぞ?」


「してないっての。だいたいこのゲームは、レアリティの低いキャラクターでも、そこそこ育てて使えるようになるから」


「……本当かのう?」


 本当だよ、と、俺は証拠に手塩にかけて育てた弱キャラを加代に見せた。


 レアリティは★1。

 一日一回引くことができる、無料ガチャで手に入る正真正銘の弱キャラだ。


 しかしながら、強力な全体攻撃魔法を必殺技として持ち、開幕一発目で敵を一掃することができるという、バランスブレイクしたキャラクターだったりもする。


 名前はタマちゃん。

 実は九尾の狐が弱体化されたキャラクターで、レベルマックスまで強化すると、本来の九尾のグラフィックに変化するという、ちょっとおいしい設定があったりする。


 しかもドジっ子属性持ち。

 ちょいちょい、期間限定のイベントクエストでは、そのキャラクター性をいかんなく発揮してストーリーにからんでくることが多い。


 運営&ユーザーからの愛されキャラだ。


 そういうところがなんというか放っておけなくて、ついつい育ててしまった。

 うん、ソシャゲに必要なのは愛だよ、やっぱり。


 弱キャラでも愛があれば使えるのだ。


「ほらな。この通りだ。弱キャラでも、育てりゃ使えるんだよ」


「……のじゃぁ」


 なぜか顔を赤らめて、スマホを持ってその場に動かなくなった加代。


 なんだその反応。

 そんな反応を返すようなやり取り、ここまでの中であったっけっか。


「……その、桜はなんなのじゃ。どうしてこのキャラが好きなのじゃ?」


「え? いや、なんか放っておけないというか?」


 あと、どことなく既視感があるというか。

 うぅん、どこで見たかは分からないけれど。


 とにかく、俺が育ててやらねばならない!!

 そんな風に思わせるキャラクターだよね。


 いやぁ、もちろん、★5のレアキャラも欲しいけれど、手塩にかけて育てた弱キャラと一緒に戦うというのが、こういうのの醍醐味でしょう。

 うん、経済的な事情とかもあるけどね。


「……そなたの誠意はようわかったのじゃ?」


「あれ、今日はやけにおとなしく引っ込むな」


「……それは。こんなの見せられたら、退くしかないのじゃぁ」


 どんなもん見せたんだろう。

 つっけんどんにスマホを俺につき返す加代。

 そうして、彼女はそそくさと、風呂場の方へと行ってしまったのだった。


 やれやれ。いったいぜんたいなんだというのだ。

 しかしまぁなんだろうね、タマちゃんの、この妙な既視感は……。


「ほんと、放っておけないんだよなぁ」

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