第143話 パチスロで大勝して九尾なのじゃ
パチスロ歴はこれで結構長い。
専門学校を卒業して、二十歳で社会に出た俺は、ありあまる新人時代の時間を勉強に使わず――というか派遣会社だからそんなの勉強してもキャリアにならない――こっちの小金稼ぎに投入してきた。
で、結局それが身になったのかといえば、そうでもない。
最初はAタイプのマシンばかりで、効率重視に立ち回っていたのだが、やはり版権者や豪華な役物の魅力たるやすさまじい。結局、番長やエウ○カなどのART機に触れてしまったが最後――遊ぶことについつい気が言ってしまい、まぁ、トントンの収支にでもなれば上々という下手の横好きという奴に落ち着いていた。
ここ最近はといえば、ずっとバ○絆のお世話になっている始末である。
どうも絆とは相性が悪いらしく、2の方が俺には合っているように感じているのだが、見なし機ですっかりと撤去されてしまったのだから仕方ない。
甲賀忍○帖と演出効果音の中毒性からは、逃れられないのだ。
とまぁ、そんな訳で、新台入れ替えでなにかとにぎわう火曜日、俺は近くのスロ屋に、
新台には目もくれず今日も今日とてバジ絆。
BC間天井を4回くらわされて、グロッキーな展開であったが――休憩から戻って来て10回ほど回しただろう。
「――フリーズしたよ」
バ○絆歴三年にして、通算8回目のフリーズである。
結構打っているはずなのに、ここ最近は引けてないイメージがあったが――まぁいい。ここからしっかりまくろう。
とまぁ、祝言モードを六回継続し、そこから真瞳術に入れ3個ストックをため、さらにループストックで爆裂させた俺は、気がつけば箱を五つほど別積みしていた。
投資額2万ちょっとからの大勝ちである。
エンディングまできっちりと見終え、さらにBT終了後100Gで引き戻した俺は、さらにそこから10連ほど伸ばす。そろそろ退き際かなとBT終了50Gほど回したところで店員を呼び出すと、ほくほくの体でそれを清算した――。
「ううむ、思わぬ大金が入ってしまった」
パチンコ屋の隣にある古物商で、記念品の貴金属を交換する。
あきらかに桁がひとつ違う大勝に気分はよくなる。
さて、これで何を買おうか。
パチンカスともなると、これを次の軍資金にと取っておくのだが、俺は違う。
勝った日は使う、それが俺が若い頃から常に心掛けている、勝負師としての心意気であった。
「服買うにも、ちょっと時間が遅いよな。というか、服屋なんてここらへんはユ○クロしかないし」
仕事道具のパソコンを新調する。
いや、まぁ、それだけあったら、そこそこ使えるノートパソコンくらい買えるが、これまた近くにPCショップがある訳ではない。
となると、食べものか――。
「肉。久しぶりに焼き肉でも食べに行くかな」
加代の奴でも誘って。
あぶりゃーげあぶりゃーげとうるさいあいつだが、なんだかんだで彼女も狐。肉は好物だろう。たまには動物性のたんぱく質もとらせてやらねば。
まぁ、二人でちょっとお高い焼肉店に入っても、十分おつりが来るだろう。
そのおつりはまぁ――次の勝負の種にでもすればいい。
そうと決まれば話が早い、俺はスマホを取り出すと、加代の奴に今日何時に仕事が終わるかとメールを打った。
しかし、彼女から帰って来たのは、むべもない返事であった。
「――疲れたから、ちょっと今日は家でしっかり休みたい?」
今、加代がどういう仕事をしているのか、俺は知らない。
だが、いつもだったら、すぐ、
相当しんどい仕事をしているのだろう。
いや、それでなくっても、あれだけいろいろな仕事を転々としていれば――自業自得とはいえ――しんどいはずだ。
ふと、俺は財布の中身を確認する。
彼女の疲れを何とか癒してやることはできないだろうか。
そんなことを考える俺の目の端に、スロット屋の休憩ルームにある、黒革張りのチェアーが目に入った――。
◇ ◇ ◇ ◇
「のじゃぁっ!! なんちゅうものを買うのじゃ桜!! お主、無職の身だというのに、金銭感覚がどうかしておるのではないか!?」
「――いや、だって、アマ○ンで安かったから」
「ちっとも安くないのじゃ!! どこからこんなお金出してきたのじゃ!!」
いや、スロットの台から出てきたんだけどね。
しかしながら、九本の尻尾を逆立てて、ふしゃぁと怒る加代には、口が裂けてもそんなことは言えない。
ワンルームアパートのど真ん中に、黒光りするマッサージチェア。
そう、加代の疲れを少しでも癒してやれないだろうか。そんなことを考えた俺は、ついつい、アマ○ンでこれを買ってしまったのだ。
いやまぁ、加代さんのおこっぷりの方がびっくりだけれど。
「ワンルームアパートに、こんなのあっても邪魔なだけなのじゃ!! 少しくらいは、考えて物を買うのじゃ!!」
「いやけど、お前、疲れてたみたいだったから」
「――桜の気持ちは嬉しいが、マッサージを受けたくなったら、
とにかく、すぐに返品処理しろ、と、加代が眉を吊り上げて俺に迫る。
しぶしぶ俺はアマ○ンに電話をすると、事情を説明して返品の手続きを進めるのだった。
とほほ。
よかれと思ってやったことなのになぁ――。
「まったく。お主はなんというか、仕事はできるくせに、私生活はほんとポンコツじゃのう」
「申しわけございません。何分まだ三十年しか生きていませんもので」
「三十年生きておったら、どんな生き物でもそこそこ知恵をつけるものじゃ」
ちくしょう加代のくせに。
まともに人間社会で働ける知恵を手に入れてから、モノは言えよな。
と、そんな彼女が、梱包作業を終えた俺に、ちょいなちょいなと手招きする。
「のじゃのじゃ。怒ったらなんだかどっと疲れてしまったのじゃ。肩を揉んでくれぬか桜よ」
「――じゃぁ、マッサージチェアーを使えばいいじゃねえかよ」
「のじゃ!! だから、勿体ないと言うておろう!!」
ほれほれ、と、俺に背中を向けて笑う加代。
ほんとお狐様ってきまぐれで困るね。
そんなことを思いながらも、これ以上言い争っても不毛なだけだ。
俺は言われるがままに加代の肩に手をかけるのだった。
「にょほほ、そうじゃそうじゃ、よい塩梅じゃぞ桜よ。その調子その調子」
「へいへい、ほんと、人使いの荒い奴だな」
「九尾とは元来そういうものなのじゃ。ほれ。もそっと緩急をつけるのじゃ」
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