第142話 食材がダブってしまって九尾なのじゃ

 ダブった。

 食材がダブった。

 冷蔵庫の中を覗き込みながら、俺は自分の腕にある袋の中身を思い出す。

 その中に放り込んだのとまったく同じ――しかもメーカーまで同じ――食品がずらりと並んでいるのに絶句する。


「のじゃ!! 今日は近くのスーパーであぶりゃーげが安かったので買いだめしてきたのじゃ!!」


「――まさに俺も、安かったから買いだめしてきたんだけれど」


 今日は二人して外に出かけていた。

 加代の奴はバイト。俺はといえば、倒産前に派遣されていた事務所に私物の荷物を受け取りに行っていたのだ。


 それで、帰り道にふと、近くのスーパーの特売日であることを思い出した俺は、おばちゃん達に紛れて買い出しに行ってきた。

 加代の奴は仕事が遅くて買いにいく余裕がないだろう――そう、それは純粋なる親切心からのものだったのだ。


 だったのに。


「のじゃ。仕事前に時間があったから、買い出しに行って来ておいたのじゃ」


「なんだよそれ。なんでお前、そんな生活力髙いんだよ」


「のじゃのじゃ。不安定な生活をしているからのう。そのあたりはきっちりせんと、この不況の日本社会で生きていけないのじゃ」


 ほんと、このポンコツ狐さんは、変なところにステータス割り振ってるよな。

 その器用さを別のところに割り振れば、もっと現代的な生活を楽してできるような気ができるのだが。


 なんにせよ、どちゃりと冷蔵庫の中に溢れかえったあぶりゃーげをなんとかしなくては。


「とりあえず、細かく切り分けて冷凍保存しておくか」


「ダメなのじゃ!! 冷凍したあぶりゃーげは味が落ちるのじゃ!! 生が一番おいしく食べられるのじゃ!!」


「しかたないだろ、生あぶりゃーげをしまっとく場所がないんだから――」


 と、俺は冷蔵庫を開ける。

 するとどうだろう、そこには、小さいビニール袋にみっちりと詰め込まれた、黄色い棒状の刻み油揚げがまるでかりんとうのように――。


「加代さん?」


「のじゃ。そういえば、先週もちょっと買い過ぎて、冷凍保存したのを、忘れておったのじゃ。のじゃのじゃ、失敗、失敗」


「――ちゃんと冷蔵庫の中身は確認して買ってくれよ頼むから」


 まぁ、それは俺も人のことを言えたことではないのだが。


 結果、昼に油揚げの炒め物、夜に油揚げの包み焼き、朝に油揚げのお味噌汁、という生活が、しばらく続いたのは言うまでもない。

 ちなみに、油揚げの包み焼きには、カリッカリにローストされた、油揚げが入っていた――。


「のじゃぁ。やっぱりあぶりゃーげは最高なのじゃぁ」


「そのうちなんか、変な病気になりそうで嫌だなぁ」

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