第132話 いろんなお狐がいるんだなぁで九尾なのじゃ
一般的に化け狐とというと九尾の狐が有名だが、世のなかにはいろんな狐がいるらしい。
「一般的に、1000歳を生きた狐を仙狐。その中で、特に力のあるものを天狐。さらにその中で3000年を生きて、強大な力を持っている狐を空狐なんて呼んだりしているわね――Wikipediaで見る限り」
「お母さん、意外とミーハーですね」
「私はそれでいうところの空狐にあたるのよ。だから。加代ちゃんみたいに尻尾が出ることもないし、耳もここ千年くらい出した覚えはないわ」
なるほど、それで加代と違って尻尾と耳を出さなくっても、あんなまがまがしいオーラを発することができたのか。
しかし、綺麗な見た目に反して、結構な年増――。
「あら? 何か言ったかしら?」
「いえ。お綺麗だな、と、そう思いまして」
眼を細めてこちらを睨む加代のお母さん。
加代と違って、こちらは勘が鋭いらしい。
あの後すっかりと険悪なムードはなくなって、とりあえず近くにあった加代ママの家へとお呼ばれすることになった俺たち。
マンションの頂上階。
カードキーをぴっとかざして部屋のロックを外した加代のママさんに続いてはいると、そこはいかにも上等な造りの部屋になっていた。
貧乏金なし職もなしで、俺のアパートに転がりこんできた加代とは、えらい違いである。などと思いながら、じろじろと部屋を見ていると、さっそく加代の奴はリビングにあったソファーにダイブした。
「ちょっと待っててね。今、お紅茶淹れるから」
「あぁ、おかまいなく――」
「おかまいするのじゃ。ママ、お願いするのじゃ」
えらい甘えぶりだなこいつ。
まぁ、元からそういう人に甘えるというか、人懐っこいところはあったような気はするけれど、親に対してだとこんな風になるのか。
ソファーのクッションを抱えながら、尻尾を振ってくつろぐ加代。
そんな娘に背中を向けて、キッチンで温かい紅茶を入れながら、るんるんと鼻を鳴らす加代ママ。
似たもの親子というか、なんというか。
九尾の狐も形無しという奴である――。
加代のママことをその母親は、その名をダッキさんと言った。
もう今更であろうが、あの有名なアレだろう。
「ほら、二十年くらい前にブームがあったじゃない。日本で、漫画の」
「――ありましたね」
「のじゃ。あの時は本当に大変だったのじゃ」
「ママそれまでお化粧とか体型とか適当にしてたんだけど、フ○リューがあんまりエッチに描くもんだから、頑張ってダイエットして今風にしたのよぉ」
「それからしばらく、お盆と正月の前に日本にやって来て、大変だったのじゃ」
「本物が本物のコスプレをするって、面白いと思わない?」
思わないです。
そしてメタな発言はやめてください。いろんなところに迷惑がかかります。
同意を求める視線がキッチンから俺へと向けられる。
正面から見ると、どうにかなってしまいそうな、ど凄い色気と共に言い放った加代のお母さんは、えぇ、面白いと思ったのになぁと悪戯っぽく笑った。
本物の千年狐狸精である。どんな凶悪な妖怪だろうかとおもいきや、流石に加代の親だった。一皮むけば、ほれこの通りのポンコツぶり。
もっとも加代よりその――肉体的なボリュームは相当なものがあったが。
「まぁ、ママはダイエットする前もそこそこイケてたのじゃ」
「やだ加代ちゃんってば、お上手なんだから。プリンあるけど食べる?」
「食べるのじゃ!!」
「ママお手製のチェーもあるけど、そっちはどうする」
「どっちも食べるのじゃ!! にょほほ、やっぱり実家は最高なのじゃ!!」
「すっかり実家満喫かよ。お前、連れていきたいところがあるっていうから、ついて来たら、里帰りとか――」
何か重大な話でもあるのかと俺はハラハラしたっていうのに。
心配して損したな、と、俺はため息を吐く。
そうこうしているうちに加代ママが、紅茶とプリンと、なんかパフェみたいなものを盆の上に置いて、俺たちの方へとやって来た。
ほれ、隣に座らんか、と、加代が二人掛けのソファーの片方をあけて、ぽんぽんと叩く。確かに突っ立ったままでは悪いだろう。
俺は促されるまま、彼女の隣へと座った。
「それで、加代ちゃん。こうしてやって来たからには、大切なお話があるのよね」
「のじゃ。そのことなのじゃ」
え、そんな話なんてあったっけ、と、俺は首を傾げる。
すると加代と加代ママの視線が俺の方へと向けられた。
ほれ、はよ言わんか、と、ばかりに、加代が俺の脇腹をつつく。
しかしなんだろう、なんのことか、俺にはさっぱり分からない。
「のじゃっ!! せっかっく実家に連れてきたのじゃ!! 男がすることなぞ一つであろう!! このアホ桜!!」
「なんだよ男がすることって!! というか、お前に言われたくないよ、アホ狐!!」
「なんじゃと!!」
「やるか!!」
「あらあらあら、二人はなんだかとっても仲良しさんなのねぇ」
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