第129話 二日酔いにはウコンをグビ九尾なのじゃ

 アシスタントディレクターさんの暴走により、しこたま酒を飲まされた俺とのじゃ子。

 当然のように、次の日はホテルのチェックアウト時間を大幅おおはばに遅れた。

 なおかつチケットを取っていた飛行機も乗り過ごすという大参事だいさんじ


「もう、なんですかみなさん。だらしがなさすぎますよ」

「――どういうアルコール分解能ぶんかいのうしてたら、そんな平然としていられるんだ」

「のじゃぁ。まだ、世界が回って見えるのじゃ」


 一人元気なのはアシスタントディレクターさんだけ。

 この調子ではもうどうしようもない。

 しかたなくもう一泊フィリピンで宿をとることにして、フライトは明日に遅らせることになった。


 しかしながら、一日ぐだぐだと寝てばかりいても仕方がない。


「とりあえず、フィリピンはルソンに来たんですから、あれを見に行きましょう」

「あれとは?」


 ガンガンする頭を押さえながら、一人元気なアシスタントディレクターについて行く。

 すると、俺たちはなにやら工事中の公園へとたどり着いた。


 そこにはどうしてだろう、ちょんまげをしたお侍さんの姿が――。


「はい、というわけでね。アルコールにはウコンということで、かの有名なキリシタン大名――高山右近の像の前へとやってまいりました」


 ははん、なるほどねぇ、キリシタン大名。


 誰だよ高山右近って。


 知らないよ、そんな武将。

 というか、戦国武将なんて、信長、秀吉、家康のホトトギス三兄弟くらいしか知らないってえの。


 どうですか、と、ドヤ顔をしていうアシスタントディレクター。

 正直、どうでもいいよなぁ、と、加代の方を見ると、なぜか彼女は戦国武将よろしく鎧を着ていた。


 いつの間に着替えたのだろう。

 いや、化けたのか。


「のじゃ、右近よ、流れ流されこんなところまで。可愛そうな奴なのじゃ」

「なにやってんだよお前」

「どうもどうも、わらわは戦国に咲いた一輪いちりんの女武将。加代ちゃんあらため高山コンコンでございます」


 なんだそりゃ。

 呆れてものも言えなくなる俺。

 そんな俺に、顔を真っ赤にして、ほらせっかくじゃから番宣ばんせんの映像とるのじゃ、と、少し焦った感じに加代は言った。


 恥ずかしがるくらいなら、やるなよな。

 まったく。


「ちなみにですが、高山右近は、キリスト教の棄却ききゃくを何度も迫られ、最終的に国外退去こくがいたいきょを命じられました。そして、船にやってきたのがルソン島はここマニラなんですね」

「まじで? こんな時代からこんな所に日本人が来てたっての?」

「ルソン島は当時の南蛮貿易なんばんぼうえき拠点きょてんでしたからね」


 まぁ、それは置いといて――と、語りたいオーラを発して目を光らせるアシスタントディレクターさん。

 昨日からずっと彼女のターンである。

 好きなんだなぁ、こういうの、と、俺は鎧姿の加代と顔を見合わせた。


「無事にマニラについた高山右近ですが、到着とうちゃく後すぐに病気にかかってしまいます。もともと、そこそこに老齢でしたから、長旅の疲れなどがでてしまったんでしょう。到着から一か月とちょっとでなくなってしまいました。彼の死をいたみ、マニラをおさめていたスペインの総督そうとくにより、街をあげての葬儀そうぎを――うんたらかんたら」


 二日酔いにひびくアシスタントディレクターさんの講義こうぎ

 それを流して聞きながら、俺はちょんまげの異国の侍の像を見上げたのだった。


 いつの時代も、苦労している人間ってのはいるもんだなぁ。


「で、ちなみに高山コンコンはどこと戦ってたのよ。織田さん? 豊臣さん?」

「のじゃ、そんないきなり振られても――」

「いや、いきなりコスプレしたのはお前だろうよ」

わらわあの時代は、おっかなくって栃木の方に引っ込んでたのじゃ」


 なんでぇ、今年の大河ドラマにからめるネタでも用意しとけよ。

 それじゃただのコスプレじゃないか。


「あぁけど、秀吉が娘の病気を狐のせいにして、狐狩きつねがりをしだしてのう。さすがにイラっとして、ちょろちょろと」

「えっ、ちょっと待って、豊臣政権とよとみせいけんのあれってもしかして――」

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