第125話 お金持ちで九尾なのじゃ

「さて、ポンペイ島を後にして、次なる目的地パラオに向かう――その前に。せっかくなのでヤップ島にもお邪魔じゃましてみることにしましょう」

「しましょうって、もう、空港くうこう降りた後なのじゃ」

不意打ふいうちで連れてくるなよな。もうてっきりパラオかと思ってたよ」


 そこはほれ、某番組電波なんちゃら敬意けいいを払って、と、ライオンディレクター。

 目隠しされて連れてこられなかっただけマシだが、まったく、はよ日本に帰りたいのに、何をやってるんだか……。


「で、ここには何があるのじゃ、ディレクター?」

「どうせお前がこうして連れてくるってことは、なんかそれなりの理由があるんだろ?」

「流石にこんだけ長く組んでると察しがよくって助かるね。二人の気づかいに、おじさん涙が出ちゃうよ」


 えんえん、と、顔をこするいい歳したおっさん。

 あほらしい茶番ちゃばんには付き合ってられん。

 そんな風に思って横を向くと、だまってアシスタントディレクターさんが、指を森の方へと向けた。


 そこに何かあるということだろうが、まったくもって、なんの代わり映えものない一般的な森である。


 そうね、なんか、入口に、やけに大きな岩が置いてあるだけの普通の森。

 丸くて大きくてぜにみたいな形した岩が転がっているだけの。


「ギャー○ルズ!!」


 思わず叫ぶついでに、作品名を言ってしまった。

 なんとそこにはびっくりすることに、人の身長くらいはある大きな大きな石――おそらく硬貨こうかと思われるものが転がっていたのだ。


 なんてことだ。

 根の国の次は、はじめ人間の世界に、俺たちは迷い込んでしまったというのか。


 って、んなことはない。


「ここ、ヤップ島は、本当にこの石貨せきかが使われていことで有名な島なんですよ」

「まったくあんた、なんでも知ってるねアシスタントディレクターさん」

「まぁ、これもお仕事ですから」


 なんでも、貨幣的かへいてきな意味合いはうすく、冠婚葬祭かんこんそうさいおくり物としてこの石貨せきかは扱われているそうなのだそうな。

 その見た目通りに大きければ大きいほど価値が高い。


「しかも、そもそもこの岩は、この島に存在しないものなんです。わざわざ、他の島から岩を切り出して、船で運んできたそうなんですよ」

「のじゃ!! わざわざ!?」

「そのために結構けっこうな死人も出たとか。まぁ、そういう行為こうい自体に価値があったのかもしれませんね」

「所変わればなんとやら、よう分からん話なのじゃ」


 さっそく、岩の前へと近づいた俺たちはしげしげとをそれを眺める。

 そんな価値のある岩だというのに、風雨ふううにさらされ、こけむして、つたまではっている。とても一人で運ぶ気になれないものではあるが、少しは整備したらどうなのだろう。


 と、そんな石貨のぽっかり空いている穴に、ひょいと顔を突っ込んで加代。


「なにやってんだおまえ」

「のじゃ。なんかこう、顔を入れて記念写る感じの奴かと思って」


 現地人に怒られるぞ、と、その頭を叩く、のじゃぁと叫ぶと、その頭に狐耳きつねみみがひょっこりと飛び出た。


 やれやれまったく。


「ほれ、それじゃそのギャー○ルズのそれも見たわけだし、さっさと帰りましょうや」

「――まっ、ちょっと、待ってほしいのじゃ。あれ。なんなのじゃ」


 もぞりもぞりとのじゃ子が頭を動かす。

 のじゃのじゃ、と、何やら力を入れている様子。


 まさか、お前。


「――あ、頭が、穴にはまって取れなくなってしまったのじゃ!!」

「お前そんな、エロ漫画のシチュエーションみたいな」

「た、助けてなのじゃ桜!! わらわを助けてたもれ!!」


 どうやら俺が出した耳が原因で、穴に引っかかって抜けなくなった様子。

 それを引っ込めろよと言ってはみるのだが。


「のじゃぁ、嫌なのじゃ、いやなのじゃぁ。こんな所に一生つなぎとめられて、みじめに暮らすのなんて、まっぴらなのじゃぁ。日本に帰りたいのじゃぁ」

「だから落ち着けって。ほら、耳ひっこませろ」

「ひっこめたくてもひっこまないのじゃぁ。もうだめ、ダメなのじゃぁ――」


 半狂乱はんきょうらん

 ハプニングになれてないのか、取り乱す加代をそこから抜くのは、困難こんなんきわめることになるのだった。


「まぁ、こんなこともあろうかと、持ってきておいたローションでも使うかい?」

「どんなことがあると思ってそんなもん持ってんだよディレクター!!」


「いやなのじゃぁ、いやなのじゃぁ、石貨せきかにはまったオキツネなんて、ニッチなシチュエーションのキャラクターなんてやりとうないのじゃぁ――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る