第123話 謎の海上遺跡で九尾なのじゃ

 かくして、スキューバダイビングにバーベキューと、貧乏旅番組びんぼうたびばんぐみにあるまじき豪勢ごうせいなバカンスを楽しんだおれとのじゃ子は次の目的地――ミクロネシアの中心ことミクロネシア連邦はその首都がある、ポンペイ島へと足を運んだ。


 まぁ、当たり前だが、見渡すばかりは海・海・海である。


「――もう南国飽きたのじゃ」

「そういうこと言うもんじゃねえよ」


 飛行機から降りて島を見渡すなり、代わり映えのない感じに落胆らくたんするのじゃ子。

 内心、俺もそうは思ったが――この撮影陣さつえいじんの前で、飽きた、なんて不用意な言葉を使ってはならない。


 待ってましたとばかりに、ライオンディレクターが邪悪な笑みを浮かべる。


「それじゃぁ、今回は趣向しゅこうを変えて、島一周しまいっしゅうじゃなくて、島散策しまさんさくにしようか」

「ほらぁ、お前、また、そんなこというから」

「はい、それじゃこのスーパー○としくんみたいな衣装に着替えてくれる――」


 そう言って、まるで、このために用意してましたとばかりの、探検服が入った袋を彼は俺たちに差し出したのだった。


====


 向かった先はジャングルの奥地おくち

 生いしげる木々の間を、ずんずんと進めば、そこに現れたのは石柱せきちゅうみ上げて作られた遺跡いせきであった。


「のじゃぁ、なんなのじゃこれは」

「おぉ、日本の石垣いしがきみたいなのが次々と」


 ザ・古代遺跡こだいいせき

 BS放送とかで特集組まれて放送されそうな光景がそこには広がっていた。


 と、当然ここで解説かいせつに入ってくるのは、この手のことに詳しいアシスタントディレクターさんだ。


「ここはナン・マトール遺跡という場所で、世界遺産に登録されているんですよ。こうして玄武岩でくみ上げられた人工島が、海辺にいくつもいくつも並んでいる、世にも珍しい海上遺跡なんです」

「ほへぇ人工島」

「伝説によれば、この人工島は海を渡ってやって来た二人の兄弟が作ったとされています」

「いやぁ、二人で作れるもんじゃないでしょ。何年かかるんだよこれ」


 ちょっとした地方の神社くらいある石垣いしがきである。

 あれも何人がかりでつくるのかは知らないが、たった二人でこれをつくれるとは、とてもじゃないけれど思えない。


 というか、こんなに大量の石をいったいどこから調達してきたのだろうか。


「ちなみにですが、伝説こそあれ、この遺跡がどういうものだったのか、また、何の目的で作られたのかというところは、詳しくわかっていないんです」

「マジかよ」

「謎なのじゃ!! 謎のナン・マトール城なのじゃ!!」

「ゲームみたいにいうなや」


 くすくす、と、笑うアシスタントディレクターさん。

 それだけじゃないんだぜ、と、怪しい笑顔と共に彼女の後ろから顔を出したのは、ライオンディレクターだ。


「この遺跡にはいわくがあってな。勝手に入ってきたよそ者や、遺跡を荒したりした奴が、次々と変死をとげているんだそうな」

「の、のじゃぁあぁ、そんな、嘘なのじゃ」

「そ、そうだろお前、そんな、呪いなんて非現実的な」


 思わずのじゃ子と身を寄せ合った俺。

 まぁ、だいぶ昔の話だがな、と、けらけらと笑うディレクター。


「今はこうして、ちゃんとしたツアーを組んで回れるようになってるから、大丈夫だよ」

「遺跡というのは構造上、どうしても有毒ガスが溜まりやすいですからね。まぁ、そういうこともあったんでしょう」


 ただ、世界遺産への敬意は忘れないように、と、ディレクターが念押しする。

 俺とのじゃ子は顔を合わせると、少し慎重に行動しようと目と目で会話をした。


「――しかし、九尾の狐が呪いを怖がるってのはどうなんですかね」

「のじゃ!! 九尾でも怖いものは怖いのじゃ!!」

「あれ、加代ちゃん尻尾が一本増えてない――」


 のじゃぁ、と、飛び上がる加代。


 いやほんと、冗談でもそういうのやめてくれ。

 呪いの存在を実感できる奴を知っているだけに、俺も結構怖いんだから。

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