第122話 泳げオキツネちゃんで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 海でおぼれて根の国(いわゆる竜宮城)へ行った桜であったが、無事に加代の下へと帰ってきたのであった。


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「まぁ、無事にこうして桜くんも戻ったことだし。せっかくだから、しばらくはバカンスということで、思いっきり南国を楽しむとしようか」


 病院での精密検査を終えて次の日。

 さっそく次の島へ行くのかと思いきや、ライオンディレクターはそんなことを言いだした。


 これに、俺と加代のテンションが上がらない訳がない。


「よいのじゃ!? バカンスしてよいのじゃ!?」

「まぁ、たまにはねぇ。ここ最近、結構ごたごたしてたしさ」


「スキューバダイビングもできるのか?」

「オフコース」


「海岸でバーベキューもできるのじゃ?」

「もちのロン」


「浜辺でパツ金のおねーちゃんナンパしても!?」

「のじゃ!! 桜ァ!! わらわというものがありながら、何を言うておるのじゃ!!」

「まぁ、英語ができるならすりゃいいけどさ」


 わっはっは、と、談笑だんしょうするスタッフ一同。

 という訳で、さっそく俺たちは、念願ねんがんのスキューバダイビングへとやって来たのであった。


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「のじゃぁ!! 見るのじゃ桜よ!! サンゴ、サンゴが超綺麗ちょうきれいなのじゃ!!」

「ほんとだなぁおい!! こりゃお前、どこぞの国が密漁みつりょうするのも納得だぜ!!」

「すごいのじゃあ、水も綺麗きれいなのじゃあ!!」

「上向くとこう、海面かいめんが反射して、なんていうか南国って感じだよな!!」

「そう、南国!! 南国なのじゃ!!」


 水中トランシーバーで、そんな会話をしながら俺たちはスキューバダイビングを楽しんでいた。

 一緒に泳いでいるインストラクターのおっさんも苦笑いである。


 ほっとけ、久しぶりにこちとら遊んでんだよ。

 鉱山こうざんで働かされたり、鳥のふんでできた島にいったり、あげく根の国に行ったり。


 それに比べて、水に潜ってサンゴ見るだけというイベントのありがたさよ。


「二人とも、一応、撮影なんだから、ちょっといいところみせてよね」

「分かってるのじゃ!! わらわ華麗かれいな泳ぎをとくと見るがいいのじゃ!!」


 と言って、のじゃ子がやってみせたのは、犬かき。


「なんで犬かきなんだよ!!」

「のじゃのじゃ!! 狐はイヌ科だからしかたないのじゃ!!」


 といって笑うのじゃ子。

 まぁ、こうして平和に笑っていられるだけ、こっちに戻って来てよかったということか。


 ほんと、こいつがすぐに元気になってくれてよかった。


 と、その時、ふと、のじゃ子の視線が海岸の奥の方――急に落ち込んでいる深く暗い水底の方へと向けられた。


「――おい、どうした、のじゃ子」


 無言。


「――おい、加代。どうしたんだよ。そんなだまり込んで」


 名前で呼びかけても無視。


 まさか、こいつ、何かよくないものに魅入られたんじゃないだろうか。

 なんといってもこいつも妖怪だ。根の国なんてものに近いこの場所で、おかしな影響を受けたとしても、それはおかしくない。


 いやだぞ、おい。せっかく、戻って来たっていうのに。


 その時、ふらり、と、加代の身体が動く。

 すぐさま俺は彼女の肩をつかんでいた。


「行くな!! 加代!!」


 そんな俺の言葉に耳も傾けず、加代はとろんとした目をして――。


「のじゃぁ、お魚、おいしそうなのじゃ。じゅるり」


 目の前を泳いでいる、魚群を眺めて舌なめずりをしたのだった。


 はい、そうですね。

 お前はそういうポンコツオキツネさまでしたね。


 心配した俺がバカでしたよ、えぇ、こんちくしょう。

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