第121話 昔々ウラシマはで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 無事、根の国からの帰還を果たした桜であった。


====


 加代からの電話により呼び出されたクルーたち。

 アシスタントディレクターは言わずもがな、ライオンディレクターにも顔を合わすなりおどろかれた俺は、あれよあれよという間に病院へと連れていかれ、そこで精密検査せいみつけんさを受けることになった。


 結果は異状なし。

 桜さん、貴方健康です、もうこないでください、という塩梅あんばいである。


「なんだったんだよいったい。確かに心配かけたのは事実だけど、ここまでする必要あったのか?」

「のじゃ!! 何を言うとるのじゃ!! お主、かれこれ一週間もどこをほっつき歩いておったのじゃ!!」

「いやだから、根の国っていう島に流れついて――って、一週間!?」


 あわてて、俺はアシスタントディレクターに預けていた、自分のスマートフォンを見る。圏外けんがい表示されているそれには、たしかにたしかに、俺がこのマーシャル諸島に到着した日付より7日ほど進んでいたのだった。


 どうして、そんな、時間が経ってしまっているのか。


「えっ、なに、そういうドッキリ? ちょっと病人に対してそれはひどくない?」

「ドッキリではないのじゃ!! そんなこと言うようにわらわたちが見えるのかえ!!」


 いやまぁ、お前はともかくとして、ライオンディレクターならやりかねないというか。過去にやられたことがあるっていうか。

 ふとディレクターを見れば、彼も神妙しんみょうな顔をしている。

 本当に、ここ数日の記憶がないのか、とでも言いたげである。


 まさか海を流れている間、七日も経っていたということだろうか。

 いやいや、ありえんだろうそんな話。

 逆に、浜に漂着して七日間寝ていたということも――いやいや、それもちょっといくらなんでも現実味がない。


 いや、一番現実味がないのは、あの根の国という島なんだけれども。


「桜さん、たしか、根の国って言いましたよね」


 と、ここで割り込んできたのはアシスタントディレクターさん。

 この手のオカルトごとには、特に詳しい彼女である。


「何か心当たりでもあるのか?」

「えっと、根の国が別名で常世の国と呼ばれているのは知ってますよね」

「あぁ、それ、向こうでスクナとかいう小さいおっさんから聞いたけれど?」

少彦名すくなくひこな!! じゃあ、やっぱりその話は本当なんですね――」


 だからなんだというのだろう。

 妙にもったいつけるなと思った俺の前で、彼女は咳払いをする。


「いいですか、そもそも常世の国というのは、日本史の中で長らく語られている楽園の一つです。そこには食べたものに永遠の命を与えるという果物の成る樹があり、また、この現世うつしよとは違う時間の流れを持っているといいます」

「へぇ、ほう」

わらわも話に聞いたことがあるのじゃ。桜、お主、そんなところに行っておったのか?」


 いや、まぁ。

 あんまり歴史とか国語とか、そこら辺の成績がよくなかったので、知らなかったんだけれど、結構有名な場所なのね、あそこ。


 てっきり不吉な場所なのかと思ってた。

 いや、不吉な要素なんて一つもなかったけれどもさ。


「そして、常世の国というのは浦島子うらしまこ――浦島太郎がおもむいた竜宮城がある場所ともいわれています」

「――マジか」


 あったわ。スナック竜宮城。

 なにそういう伏線というわけ。

 分かりにくいよ。いったい誰が気づくんだそんなもん。

 というか一泊とかしなくてよかった。はよ帰って来た甲斐があったわ。


「のじゃ!? つまり、桜は浦島太郎ということなのじゃ!?」

「おそらく」

「――まいったなぁ。まさかあれが本当に夢でもなんでもなかったなんて」


 そう言いながら、俺はふと、尻の後ろに違和感を感じた。

 取ってみれば――それは確かに、あの異界にて、スッさんなるおっさんに貰った札が張り付いていた。


 うん、やはり、間違いなくあれは実際にあったこと――。


「のじゃ!! 大変なのじゃ!! 桜よ、玉手箱、玉手箱をあけてしまわないように注意するのじゃ!!」

「いや、貰ってないから大丈夫だっての」

「うっかり開けてしまったら、鶴は万年――お主もばけものフレンズの仲間入りしてしまうのじゃ!!」

「何がばけものフレンズじゃい」


 誰がなるかそんなもん。

 延々お前のようなお馬鹿キツネに絡まれ続けるなんて、考えただけでホラーだっての。


 あぁ、人間でよかった。

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