第108話 新企画で九尾なのじゃ
「のじゃのじゃ。これに懲りたらもう悪いことはするでないぞ、ガゼカよ!!」
「はい、申しわけございません、加代ちゃんさま。私が調子にのっておりました。捕まえた人たちはすぐにでも解放いたします」
加代の前で土下座させられる哀れな豚妖怪。
さきほどまでの調子にのっていた勢いなぞどこへやらである。
強いものには巻かれろというのは、妖怪も人間も変わらないということみたいだ。
もう一度、威嚇もこめて加代がしっぽをそっと俺の前へと出す。
寝ようという動作をすると、どうかもうご勘弁をとガゼカは強く頭を地面にこすりつけた。
「あのような現実感も希望もないお花畑な夢、もうおなかいっぱいです」
「そうだろうか、俺はこれでもかってくらい現実的かつ絶望的に感じたんだが」
「狐のお嫁さんなんて漫画の中だけの話じゃないですか。なにその気になってるんですか、おかしいですよ、この人」
のじゃ、どういう意味なのじゃ、と、こちらに視線を向けるのじゃ子。
そんな彼女の視線をしれっと避けて、俺は、さて、と、話を切り替えた。
「これからどうするかだな。番組はまだ続いているのか?」
「のじゃのじゃ。みんな、次の撮影現場で待機してるのじゃ」
「シンガポールからは、折り返してミャンマーの方へ行くんだっけか」
「のじゃ。それがのう、桜がこっちに連れ去らわれたから、急きょ予定変更になったのじゃ」
はい?
と、俺が戸惑う中で、のじゃ子がテロップを取り出す。
そこには――。
「企画変更。水上バイクでめぐる、東南アジア島国の旅――って、正気かよこれ!?」
「のじゃのじゃ。もちろん沖に出るのは危険だから、長距離移動はちゃんとした船使うのじゃ」
どんどん企画が前時代的になって来ている。
もういっそ、ここでしばらく鉱夫をやって、日本に帰るほうが楽だったんじゃないかと思うくらいだ。
「のじゃ、何をそんないやそうな顔をしているのじゃ。せっかく助けに来てやったのに、そんな顔じゃ張り合いないのじゃ」
「お前、さぁ、簡単に言うけどさぁ」
まぁ、しかし、ここで降りる訳にもいかないよな。
差し出されるのじゃ子の手。
俺は仕方なく、迷彩の施された彼女の手を握り返したのだった。
「では、さっそく出発進行なのじゃ!!」
「おう!!」
ふと、頭上から聞こえてくるヘリコプターの音。
物騒な銃なんかをその横っ腹からのぞかせるそれには、九つの尻尾のエンブレムが描かれていた。
やれやれ随分慕われているみたいだな、このお狐様は。
「しかし、お前もたまには役にたつんだな」
「たまにはとはなんなのじゃ。加代さん、いつだってお役立ち、とってもできるお狐さまなのじゃ」
「はいはい、そういうことにしておくよ」
「のじゃ。なんだか全然感謝しているように思えないのじゃ」
訂正を要求するのじゃ、と、叫ぶのじゃ子を置いて、俺は着陸したヘリコプターへと乗り込んだのだった。
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