第107話 南洋妖怪大戦争で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 白黒をした巨大な豚が現れた。


====


「バク!? あれか、夢○獏ゆめほにゃららばくのバクのことか!?」

「なんでそんなわかりにくいたとえを――まぁ、そのバクなのじゃ!!」


 バク

 人の枕元に現れて、その夢を食らうという妖怪である。

 基本的に悪魔を食らってくれる成獣なのだが――目の前に立っている巨大なそれは、とても神聖なものとは思えない。


 しかし、どうしてそんな妖怪が、こんな南洋の果てにいるのか。


「パプアニューギニアに、ガゼカと呼ばれる巨大なバクの悪魔が出ると聞いて、ピンと来たのじゃ。きっとそいつは、中国もしくは日本から渡った妖怪なんじゃないかと」

「ご名答!! 中国大陸から海を渡り、南洋にたどり着いたのがこのガゼカさまよ!! こっちへ渡ったバクは少なくてな、すっかりと大きくなっちまった!!」


 なるほど、昨今の妖怪はグローバルだな。

 まぁ、コンビニでバイトする九尾のお狐さまがおられるのだ、しかたないか。


 だがしかし、こいつが黒幕だとしてどうして俺なんぞを捕まえたのだ。

 お金に困っているようには――別に見えないけれどな。

 どっかの九尾と同じで、生きていくにはそれなりにお金が必要なんだろうか。


 すると、ふっふっふ、と、のじゃ子が意味深な顔をする。


「お主の目的はなんとなく察しているのじゃ!! きっと現地の人間の悪夢だけでは飽き足らず、先進国の人間の悪夢も食らいたくなって、こんなことしたのじゃ!!」

「ほう、なかなか勘がいいじゃないか、九尾のお嬢ちゃん」

「借金苦と生活苦に苛まれる人間の見る悪夢は、さぞお美味かったじゃろうな。しかし、わらわの縁者に手を出したのが運の尽きなのじゃ」


 たぁ、と、のじゃ子が銃をぶっ放す。

 それは正確に巨大バクの腹へと命中した――が。


「ぐふふっ!! 効かねえなぁ!! 神獣をなめてもらっちゃこまるぜ!!」


 全弾跳躍して、あらぬ方向へとそれが飛んでいく。

 あっけにとられる俺たちの前に、獏が一歩踏み込んで、その前脚を振り下ろした。


 横に転がってそれを避けた俺とのじゃ子。

 ついさっきまで俺たちが立っていたそこには、人の頭大の穴がぽかり開いていた。


「うぉい、なんだよなんだよあいつ、マジもんのモンスターじゃないか!!」

「のじゃのじゃ、意外と厄介なのじゃ」

「どうすんだよのじゃ子。こんな世界観違う相手、お前、倒せるのかよ」

「のじゃ。みくびるでないぞ桜よ――銃がダメなら頭を使うのじゃ」


 お前が頭を使っていい結果になったことが、果たしてあっただろうか。

 なんて言っている俺の前で、ふと、のじゃ子は俺の前に自分の尻尾を差し出した。


「なんのつもりだよお前、こんな時に!!」

「のじゃ、奴の好物は悪夢、ということは、その逆は嫌いなものということなのじゃ」

「――なるほど!! つまり吉夢きちむを見ればいいってことだな!!」


 そういうことなら任せろいと、俺はのじゃ子の尻尾の上に寝転がる。

 大長編のじゃえもんの主役をなめてもらっては困るぜ。の○太ほどじゃないが、過酷なSE仕事で鍛えた俺は、昼休みだろうが電車移動だろうが、十秒あったら寝付けるってもん――Zzz。


====


 夢・・・夢のなかにいる・・・。


 いつもと同じアパートの一室・・・。


 のじゃ子の奴がなにやらてに抱いている・・・。


「ほーら、お父さんがお目覚めなのじゃ。抱っこしてもらうのじゃ」


 きゃっきゃっ、と、笑ってこちらに預けられたのは、黄色い髪をした子供。

 青いオーバーオールを着た彼は、俺の手の中にやってくるなり、きゃぁと嬉しそうにその顔にえくぼを浮かべた。


「ぱぁぱ、ぱぁぱ」


 ぺたりぺたりと俺の頬を叩く子供。

 もっさり、と、した感触を手に感じてそのお尻をのぞき込めば――。


 そこには人間にはない、黄色い尻尾が生えているのだった。


「のじゃのじゃ。桜よ、かわゆいのためにも、これから二人で頑張るのじゃ」


====


「おっ、オワァーッ!!!!」

「のじゃぁっ!? なんなのじゃ、いきなりそんな飛び起きて!!」


 俺はのじゃ子の尻尾から飛び起きると、息を整えた。

 危ない、なんというか、非常に危ない夢だった。


 もう少し起きるのが遅かったら、俺は異種間結婚もいいよね、とか、訳のわからん属性に目覚めて、人間を捨ててしまうところだった。


「悪夢。とびっきりの悪夢を見たぜ――お前、なんちゅうもんを見せるんだ!!」

「知らんのじゃ、お主の頭の中のことまで責任もてんのじゃ!!」

「しかししまったぜ。まさか、吉夢を見るつもりが、悪夢を見るなんて、これじゃガゼカは――」


 ふと、俺は起き上がって、豚の悪魔の姿を探す。

 どうだろう、そこには口から大量の白い粉を吐いて、倒れている豚の姿があった。


 甘い香りが漂ってくる。

 さらりさらりと、風にそよぐそれは間違いない。


 ぺろりするまでもなく砂糖であった。


「砂糖吐いて倒れる吉夢とは、いったいどんな夢を見たのじゃ、桜よ」

「――ノーコメントでお願いします」


 吉夢。あれが、吉夢だというのか。勘弁してくれ。

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