第106話 悪い夢で九尾なのじゃ

 パララ、パタタと銃撃音があたりに響く。

 のじゃ子が機関銃――と思われるもの。銃の知識がないからようわからん――をぶっぱなし、蜘蛛の子を散らして進む中、俺は必死で彼女の尻尾の後ろを続いた。


 鞭を持った監視役こそいたが、向こうは銃などの装備は持ち合わせていないようだった。それだけにのじゃ子の絶妙な威嚇射撃に、応戦することなく道を開けていく。


「おい、のじゃ子、頼むから人死にだけは勘弁してくれよ」

「大丈夫なのじゃ。そのあたり、わらわもちゃんと考えておるのじゃ」


 事実、のじゃ子の威嚇射撃は的確で、死傷者は今のところ出ていないが、万が一ということもある。

 そもそも自分の身を助けに来てもらってきておいて、こんなことをいうのもなんだが、一応こっちにも非がある訳で。


 などと考えてしまうと、つい、足が重くなる。


「のじゃ。ほれ、何をぼさっとしておるのじゃ、早く、来んか」

「いや、なんて言うんだろう。やっぱり、今回の件は俺にも非がある訳で」

「それならまっとうな手段でその非を償えばいいであろう!! こんな理不尽な状況や条件を甘んじて受けることなどないのじゃ!!」

「そうかなぁ」

「そうなのじゃ!! というか、今回の一件はそもそもお主のせいではないのじゃ――」


 ふと、会話を中断して、のじゃ子が首を横に振った。


 でてこい、と、のじゃ子が叫ぶ。

 それは広葉樹林がもっさりと茂った林の先――緑色をした闇の中であった。

 パタラパタラと銃声が鳴り響く。

 その飛んだ弾丸は木々の葉の間を引き裂いてまっすぐに飛んだ。


「ぐふふっ、さすが九尾の加代ちゃんと呼ばれた大妖怪。ボキの存在に気付いていたとは――」

「こんな場所に悪逆非道な方法で人を集めて、悪趣味に過ぎるのじゃ!!」


 さっきから、何を言っているのか、と、思ったそのときだ、声の主がのっそりとのっそりと木々の中から顔を出す。

 それは人の背などゆうに超えるくらい大きな――豚かパンダのなりそこないか、それともアリクイのできそこないか、妙に太い鼻を持ち、腹回りが白、足と手が黒という、イカした配色をした生き物であった。


 人の身長の倍くらいありそうな体躯をした、それが、ふんす、と鼻を鳴らす。

 その生暖かく湿った鼻息に、思わずうだるような暑さも忘れて、俺は鳥肌をたてた。


「のじゃのじゃ!! やっぱりお主が元凶か!!」

「知っているのかのじゃ子!? というか、なんなのこいつ!? 生き物なの!?」

「こいつはわらわと同じ妖怪――人の悪夢を食らって肥える妖怪、バクなのじゃ!!」

「ぐふふっ、こっちではガゼカって呼ばれてるがなぁ!!」

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