第104話 インドネシアの王国で九尾なのじゃ

 気が付くと、俺は暗い部屋の中に居た。

 暗く、空調も聞いていない、湿っぽくて、蒸し暑い部屋だ。


 どうして、俺はこんなところに、と、しばし記憶を巡らせる。


 ぐわんぐわんと頭が揺れた。

 今まで感じたことのない、妙なその感覚に、俺は正直戸惑っていた。

 一週間、仮眠だけで駆け抜けた、炎上案件をしていた時の頭痛よりきつい。


 誰かに殴られたのだろうか。

 喧嘩なんてめったにしないが、と、俺は頭を手で揺さぶった。どうも、外傷らしい違和感は指先には感じない。いつもの俺の頭である。


 不意に、上半身が肌かなことに俺は気が付いた。

 暗い部屋の中で目を凝らせば下はジーパンである。


「おかしい、俺は確か、シンガポールのカジノにいたはずなのに」


 ふとその時、誰かが俺の足を蹴った。

 隣を向けばどうだろう、俺と同じように上半身が裸、ジーパンを吐いた色黒の男が横たわっているではないか。

 まるでブラックミュージックでも歌っていそうな、ファンキーな頭をしている。


 その隣に寝転がっているのは、なんとも親近感の沸くアジア風の顔つきの男。

 ただ日本人ではない、が、モンゴロイド系の近い顔立ちをしているのは間違いない。


 どうして俺はこんな男たちと一緒に寝ているのか。

 ふとその時、ドアを蹴破って作業着の男が俺たちの居る部屋へと入って来た。その手に握られているのは、のぞき込めば目の底が焼き切れるのではないかというハイビームを放つライト。


「E班!! 起床時間だ!! 起きろ、仕事の開始時刻だ!!」

「E班!? 起床!? 仕事の時間!?」

「さっさと立て!! この責務者ども!! てめえらは、カジノでこさえた借金を返し終えるまで、ここで重労働に従事するんだよ!!」


 びしり、びしりと、鞭の響く音がする。

 その音に慌てて部屋の中に居た男たちが起き上がる。

 あきらかに異邦人。にも関わらず、流暢な日本語を発して逃げ惑う男たちの姿に、違和感を感じつつもその人の波に続いて俺は部屋を出た。


 するとどうだろう。


「――なんだこりゃ」


 見渡すばかりは灰褐色をした風景。

 それが天に向かって続くのであれば、なんてことはない山である。

 が、それが続くのは地の果て。


 まるで隕石あるいはコロニーでも、落下したのではないかという大きなクレーター。螺旋を描いて地の果てへと向かっていくそれ。

 ここは本当に地球なのかと天を見上げれば、見慣れた白い月が頭上に浮かんでいた。


「ここから生きて家に帰る方法はただ一つ。自分の命と同じ価値のきんを掘り起こす、それだけだ!! わかったらさっさと行ってこい、この盗掘者ども!!」


 ぼさぼさしているんじゃねぇ、と、尻を蹴られる。

 前のめりに倒れれば、現実感のある地面が俺の体を受け止めた。


 どうしよう、これはVRではない。


 ここは、いったい、どこなのだろうか。

 俺はいったいどこへ来てしまったのだろうか。


 これ、本当に『でていけあんたは九尾さんギャグ小説』だよね。


 ふと俺は、姿の見えない相棒――加代の身を案じ、また、これもまた加代の悪い冗談の一種なのではと、疑った。

 だが。


「さっさといかねえか、このウスノロ!! 尻にダイナマイト詰めて坑道に放り込むぞ!!」


 地面に打ち付けられて弾けた小石が、膝小僧をかすめる痛みに、これがやはりVRでも幻術でもない、現実リアルだと自覚したのだった。


 くそっ、とがったアゴが出てきた時点で気がつくべきだった。


「――まさかこの強制労働所パロへの布石だったとは!!」

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