第103話 ギャンブル地獄で九尾なのじゃ
さて、シンガポールの夜といえば、やっぱりカジノである。
シンガポールへ入るやいなや、競馬なんかに巻き込まれた俺と加代。
しかしながら、人生万事塞翁が馬。何がどう吉と出るか分からないものだ。
俺は大穴狙いで買った加代のレースの馬券が的中。加代の奴は、飛び入り参加したレースの賞金と、思いがけない臨時収入で懐が潤っていた。
となれば、当然、カジノに行かないという話はない。
よれよれの旅服姿から、タキシードとドレスに着替えた俺とのじゃ子は、スタッフを連れてカジノへと繰り出したのであった。
「のじゃのじゃ。カジノなんて久しぶりなのじゃ、元ディーラーの血が騒ぐのじゃ」
「そういやお前と一回カジノに行ったことがあったなぁ」
あの時にも感じたが、どうしてこうカジノというのは、アゴがとがってる奴らが多いのだろうか。
そして、ざわ…ざわ…、という効果音を意味もなく感じるのだろう。
これで黒服の奴らが現れたらえらいことだな。
「のじゃ、ところで、桜は何をするのじゃ。加代さん、久しぶりにポーカーで無双かましたい気分なのじゃ。ポーカーするのじゃ」
「一人で行ってくれ。俺はそういう対人相手のはいらん気を使うからやらんよ」
「のじゃ? それじゃなにをするのじゃ?」
決まってるだろう。スロットよ。
お前、若いころはビタ押しの桜ちゃんと呼ばれて、ひぐら○祭で荒稼ぎしたもんよ。
それでなくても、G○DING○Dとか、拳王○舞ターボとか薄いとこ引く能力には自信がある。
「本場スロットでどれだけ通じるのか、試させてもらおうじゃないかよ」
ここしばらくというもの、仕事に忙しくってすっかりとご無沙汰になっていた血が騒ぐの感じながら、俺はスロットコーナーへと向かったのだった。
====
数十分後。
「何故だ、なんでだ、どうして引けない、ジャックポット――!!」
俺はすっかりと競馬で稼いだ種銭を使い果たしてスロット機の前にうなだれていた。
なんということだろう、まったくなんのいいところも、一度のジャックポットも何もなく、とんとんとんと資金は底をついてしまった。
早い、あまりに早い。
これが本場のスロットだというのか。
「のじゃのじゃ。桜よ、見てくれなのじゃ。競馬の賞金が二割り増しじゃぞ。にょほほ、これで今日はよいご飯がたべれ――のじゃ!?」
どうしたのじゃ、そんな怖い顔をして、と、のじゃ子がこっちをひきつった顔でみていた。
とくと見ろ。
これが全財産をスロットで溶かした奴の顔じゃ。
「その様子じゃと、そっちはさっぱりだったようじゃな」
「そうだよ、悪いかよ、お前」
「じゃから
「うるせえ、そんな仕事みたいにこつこつやったんじゃ、ギャンブルの面白みがないだろうがい」
あ、こいつ、ダメ人間なのじゃ、と、ばかりの顔をこちらに向ける加代。
そうですよ、あぁ、そうですよ。この通り、俺はダメ人間でござい。
ふだん駄女狐とか偉そうに上から目線で言っているが、俺だって一皮むけばこんなもんよ。ギャンブルに熱くなるくらいの山っ気くら持ち合わせてるわ。
「のじゃのじゃ。ダメなのじゃ桜よ。飲む打つ買う男の甲斐性なんてもう古いのじゃ。お仕事でも遊びでもなんでもコツコツ堅実にが大切なのじゃ」
「傾城の九尾の狐がなにを言うかね。それより、種銭あるなら貸してくれよ」
「のじゃ!! ダメなのじゃ!! これは
というか、返ってこないお金は貸せないのじゃ、と、ケチなことを言うのじゃ子。
そんな調子で、どうして国が亡ぶのを止めなかったのか。
俺は改めてこの九尾の狐の素性を怪しんだのだった。
「とにかく、
「――クレジットでチップ借りれるみたいだから、もうちょっとだけやってく」
「のじゃぁ!! やめておくのじゃぁ!! 痛い目見るだけなのじゃぁ!!」
「こういう時のためにクレジットの限度額上げておいたんだよ」
おとなしく一緒に帰るのじゃ、と、俺の手を引くのじゃ子。
そんな彼女を振り払って、俺は換金所へと向かったのだった。
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