第97話 さらばマレーシアよで九尾なのじゃ
なにはともあれ、バイクを取り戻して旅を再開した俺とのじゃ子。
「もうグダグダした展開は終わりだ。さっさとシンガポールに向かうぞ!!」
「
すっかりと心を通わせたトヨールたちに見送られて、俺たちは南へ南へと進んだ。カブを飛ばしに飛ばして、なんとか日が暮れる前にはシンガポールの手前の都市、ジョホール・バルへと俺たちは到着した。
シンガポールの前というだけあって、ジョホール・バルは高層ビルがちらほらりと天へと伸びる近代都市だ。
カブのエンジンを切り、引きながら市街を歩けば、日本とそう変わらない街並みに少しばかり感心した。
「入国の手続きもありますし、今日はここジョホール・バルで一泊ですね」
「のじゃぁ。やっとふかふかのベッドで寝れるのじゃ」
「誰がバカやったせいでそうなったのか、もう忘れたのか」
「しかし近代的な都市なのじゃ。ここならお宿もそこそこいいところが期待できそうなのじゃ」
こいつ話題を逸らしやがった。
まぁいい。
確かにのじゃ子の言う通り、ここジョホール・バルは今まで見てきた都市の中でも、群を抜いて近代的な感じのする都市だった。別に首都でもないのに、ここまで都市として整備が行き届いているのは、やはりシンガポールの影響だろうか。
二人そろって無知無学の徒である俺とのじゃ子。そんな俺たちをフォローするように、アシスタントディレクターさんが、ふふっと笑った。
「ここ、ジョホール・バルは、第二のシンガポールを目指して、マレーシアが国を上げて開発している都市なんですよ」
「ほへぇ、なるほど」
「お金をかけてるのじゃね」
「その開発規模から投資先としても注目されていてですね――イスカンダル計画なんていうんですけど、聞いたことはないですか」
ないねぇ。
イスカンダルなんてそんなの、宇宙戦艦が向かう先でしか聞いたことがない。
己の無知を沈黙で肯定する俺の横で、のじゃのじゃと、なぜかのじゃ子は首を振って頷いた。
「まさか、のじゃ子!? お前、知っているのか!!」
「のじゃのじゃ。なるほどのう、かの高名なアレクサンドロス大王のアラビア名を冠するとは。なかなかの心意気よのう。さしずめ、その東方遠征の逸話にあやかってのことであろう」
バカなこいつ。
名前の意図まで理解しているというのか。
まるでつらつらとよどみなく出てきた彼女の言葉に驚く俺。そんな俺に対してのじゃ子は、ここ久しく見ることはなかった渾身のどや顔を返してみせたのだった。
「まぁ、
「くそっ、のじゃ子に知識で負ける日が来るなんて」
「にょほほほ。もちっと、桜は人類の歴史を勉強したほうがよいようじゃのう」
「あの、非常に申し訳ないんですけど。イスカンダル計画のそれは、当時のジョホールの君主の名前からとられているんですよ。なので、アレクサンドロス大王とは関係ありません」
「のじゃあっ!!」
まぁ、ねぇ、そんなこったろうと思ったよ。
やーいばーかばーか、どや顔で語っておいて違うんでやんの。はずかしい奴。
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