第92話 盗まれバイクが走り出して九尾なのじゃ

「えぇ、という訳で、朝から恥ずかしい夫婦漫才をかましたのじゃさんたちは、バイクを直して再びシンガポールに向かって出発したのでしたなのじゃ」

「なお、本作品はフィクションです。登場する人物、団体、俺とのじゃ子の関係は、現実のものとは関係ありませんのでご了承ください」

「なのじゃ」


 バイクの修理が完了するまで暇だからという理由で、番組の開始VTRを撮る俺とのじゃ子。

 寝不足のせいか、それとも、そのせいで頭の沸いたやりとり、ばっちり映像に撮られてしまったからか。


 おそらくその両方でしょうね。えぇ、誰が見てもきっとそう言うでしょうよ。


 ばっちりさっきのやり取り使わせてもらうから。

 と、人の息の根を止めるくらいのよい笑顔をこちらに向けたディレクター。

 そう聞かされては、流石にこのような、フィクションの注釈を入れるしかない。

 

 ささやかな抵抗を終えた俺とのじゃ子は、ため息を吐きながらそれぞれのバイクへと向かった。


「ばっちり直ったそうです。また帰りになにかあったら声をかけてくれって、言ってましたよ」


 アシスタントディレクターの女の子が、そう言って、のじゃ子のバイクを引いてる。

 のじゃ、と、それを受け取って、加代が早速またがる。


 ハンドルを回せばフォンフォンと、景気のよい音が田園地帯にこだました。


「おぉ、本当にちゃんと直ってるのじゃ!!」

「正直なところ不安だったが、問題なさそうだな。やれやれ、異国の地でも職人ってのはいるもんだな」


 車どおりがないのをいいことに、ぐるりぐるりと円を描いてその場で回ってみせるのじゃ子。

 やがて側道にそれを止めると、彼女はじっとこちらをみて微笑んできた。


「のじゃぁ。これでようやっと旅が再開できるのじゃ」

「ったく。誰のせいだと思ってるんだよ――」


 まぁこうして無事に直ったのだから、もう強くは言うまい。


「よし、なんとか今日は野宿回避してシンガポールで一泊するぞ」

「のじゃのじゃ!! ふかふかのベッドで眠るのじゃ!!」


 おぉ、と、二人で腕を振り上げる。

 かくして俺とのじゃ子の旅は再開――。


「ところで、さぁ、俺の止めといたバイク。見当たらない気がするんだけれども」


 するはずだったのだが。


 何故だろうね。


 十五の夜でもないのに、バイクが盗まれて走り出したのだろうか。

 昨日の夜まで確かにそこにとめてあったはずの、道路の側道に置いておいた俺のバイクが、跡形もなくなくなっていたのだった。


「のじゃ。そういえば昨日の夜、バイクの音がしていたような」

「そうですね、私たちも夜半にバイクの音で目を覚ましました」

「いやぁ、正直これ盗まれたかなと気づいたんだけどさ、まぁ、それも面白いかなと思って――」


「面白くねえよ!! 止めろよ!!」


 母さん、キャンプ編が終わったと思ったら、次は十五の夜編が始まりました。

 盗んだバイクで走り出す○崎ボーイたちを、僕は許すことができるでしょうか。

 たぶん無理です。

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