第93話 バイク九尾バイクで九尾なのじゃ

「バイクが盗まれるってどういうことだよ。こんなん地上波で流していいのかよ」

「のじゃのじゃ、そういうでない桜よ。警察二十四時みたいで面白いのじゃ」

「面白くないのじゃぁ!!」


 気楽でいいよなぁ、お前は。バイク盗まれてないんだからさ。

 

 バイク自損するわ、野宿させるわ、挙句人様のバイクをみすみす盗ませるわ。


 お前は疫病神か。


 そりゃ取り憑かれたら国も傾くわ。

 個人レベルでもこれだけえらい目にあっているのだ――。


「いや、やめよう、こいつに当たっても何も解決しない」

「そうなのじゃ。なに、心配せんでも、このご時世なのじゃ。備えは万全――じゃのう、ディレクターさん?」


 と、ワゴンの中で、なにやらごそごそと作業しているディレクターの背中に問う。

 まぁねぇ、なんて言葉と共に振り返ると、彼はノートパソコンを手にしてこちらへとやって来た。


 そこに映し出されているのは、例によって、日本でもよくお世話になってるマップサービス。

 びこんびこんとその地図上に明滅する印が置かれていた。


「なんすかこれ?」

「いやぁ、こんなこともあろうかとね、桜くんのバイクにGPS発信機つけてあったんだよ。で、これはそれをマップにプロットしてみたわけ」


 ちなみにここが現在位置ね、と、指差した場所。

 そこからGPS発信機の信号が出ている場所は、そうそう遠くなさそうだ。


 しかし――。


「これ、GPS信号の出てる場所、見るからにこの道から外れてますよね?」

「外れてるね。しかも森の中だ」

「街とかにあるなら分かるんですけど、なんで森の中?」

「乗り捨てるにしてもちょっと変な場所だよね――」


 どうにも奇怪なそのバイクの現在位置に、俺はなにかよくない嫌悪感を抱いた。

 単に盗まれたのなら、現地警察に同行してもらってはい終わり、なのだが。


「こいつはやばい匂いがプンプンするぜ」

「バイクだけになのじゃ」

「それはブンブンだ」

「バイク、加代さん、バイク!! B○Bノージャっ!!」

「なんで今それやる必要があるんだよ!! しかも微妙に古いし!!」


 真面目にやれよと、俺はのじゃ子の頭を叩いた。


 憮然とした表情でむっすりと俺を睨みつけるのじゃ子。

 そんな不機嫌お狐さまは置いといて。

 俺はまたライオンディレクターの持ってきたパソコンの画面を睨んだ。


「変な組織の工場とか、そんなのがあるとかじゃないですよね」

「ないんじゃないかなぁ。むしろ、そんな奴らが不用心に盗みを働くとは思えんよ」

「すると、窃盗団のたまり場とか?」

「ありえなくもないけどさ、たまり場にしてはちょっと街から遠くない、ここは」

「たしかに」


 異国だけあって常識というのがよく分からない。

 こういう所にバイクで向かう、普通、どういうシチュエーションなのだろうか。


「ふっふっふ、まだまだ洞察力が足りないのじゃね、桜くん」

「そういやお前こっちの方の出身だったな。何か分かるのか、のじゃ子」


 腕を組んでふふんと鼻を鳴らす加代。


「道から大きくはずれた森の中のバイク。これはつまり捨てられたと考えるのが妥当なのじゃ」

「捨てられた? なんのために?」

「もちろん逃走経路を誤魔化すために決っているのじゃ。おそらく、バイクを盗んだ犯人は、何者かに追われていたに違いないのじゃ。逃げる過程で、ていよく道にとめてあった桜のバイクに眼をつけて盗み――そして、ある程度追跡者たちをまいたところで、これを人目のつかないところに乗り捨てた」


 なるほど。

 筋道は立っている。


「で、オチは?」

「密林の中に潜む逃走者、それを追跡する行きがかりの女刑事加代さん」

「ほうほう」

「B級、狐、ムービー!! B○Bノージャっ!!」


 MovieはBじゃないだろ。というか、頭文字でもないし。

 付き合っとられん、と、俺は加代を無視して、再びノートパソコンの画面を睨んだのだった。


「のじゃぁ、無視しないで欲しいのじゃ、桜。せめてツッコんで欲しいのじゃ」

「元ネタもピン芸人だろ。自分でなんとかしろい」

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