第85話 ふっさふっさで九尾なのじゃ
「嘘やん!! ザビエルちゃうやんこんなん!! ふっさふっさやん!!」
ハゲと言ったらザビエル。
そりゃもう小学生の時分なら、ひょんな拍子に十円ハゲでも見つかれば、ザビエルかアルシ○ドと、俺らの年代は笑われたものである。
今はあれかな斎○さんとかになるのかな。
とにかく俺の記憶の中にある、ハゲの代名詞、ザビエル。
そのザビエルを顕彰している像があるというから、観光ついでに明朝やって来てみれば、そこに立っていたのは凛々しい顔をした白亜のナイスガイであった。
ちゃうやん。
ザビエルこんなんちゃうやん。
言うたらお前、なんかちょっとやらしいおっさんみたいな、そういうイメージの奴やん。なんでや。
「――桜、なんで大阪弁なのじゃ?」
「地元が大阪なんでしょうか? それほどショッキングだったんですね」
「ショックだよ!! なんだよ、ザビエル、俺は信じてたんだよ!! アンタは俺たち、薄い毛の男たちを守護してくれる男だと、信じていたんだよ!!」
普通に仏教徒だけれども。
それでも、なんというか、古き良き思い出を裏切られた気分で、思わず叫ばずにはいられなかった。
ここはセントポール協会跡。
小高い丘の上に立つザビエルを眺めながら、ほへぇ、と、俺たちはため息をついた。
「ほほう、これがお主が言っていた、サミュエルか、なのじゃ?」
「アメリカの人気俳優だそれは」
「おそらく日本で一番有名なザビエルの肖像画。あれで勘違いしている方も多いでしょうが、頭のあれは帽子でザビエルは禿げていなかったそうですよ」
「帽子? あぁ、言われてみりゃ、確かにそんなのかぶってるよな、あの人達」
そうか、それで勘違いしたのか。
俺はてっきり日本にやってくる苦労で、あんなことになってしまったのだとばかり思っていたが、そういう訳でもなかったんだな。
「しっかし予想以上に男前だな。結構これ、希望とか混ざってんじゃないの?」
「海外の肖像画なんかではこんな感じらしいですよ」
「マジカ――顔までいいとか」
ザビエル。一気に親近感がなくなったよ。
まるで少年時代の悪友のように思っていた貴方を、こんなに遠く感じる時がくるだなんて。
「のじゃのじゃ。まぁ、歴史上の人物というのは、どうしても後世の人間の願望を受けてしまうものなのじゃ。多少違っているのはしょうがないのじゃ」
「――お前が言うとなんか妙な説得力があるな」
こっちはこっちで、親近感しか沸いてこなくて草だが。
九尾のきつね。
君は尻尾が九つあるだけのフレンズなんだね。
あと就職できるけどすぐクビになっちゃうフレンズなんだね。
おもしろーい、すごーい、たのしー、アハハハ。
って感じだ。
「ちなみにもう少し行くと、ザビエルさんの遺体を安置していた場所があってですね、彼の名前のついた教会もあるんですよ」
「まじか、ここはなんだ、ザビエルパークかよ。どんだけ皆ザビエル好きなんだ」
おいでよ、ザビエルパーク(そんなものはない)。
九尾の加代ちゃんが今なら君を待ってるぞ。
「ほれ、桜よ、ボケっとしとらんと、はやくいくのじゃ。今日中にしんがぽーりゅに到着するのじゃろう」
「あぁ、うん、分かった」
それでもやっぱり、まぁ、歴史上の人物。
あの時代に海を越えて日本へと文化を伝えに来た、勇気を持った人である。敬意を込めて、俺はその宗派の礼儀とは違うけれども、その像に向かって手を合わせたのだった。
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