第77話 黄金銃を持つ狐で九尾なのじゃ
「みなさんこんにちは、ジェームズ・加代さんこと009尾です」
「石ノ森○太郎になっとるがな」
「のじゃのじゃ、細かいことは言いっこなしなのじゃ」
ぴっちりとしたスーツ姿に着替えて、黄金色した水鉄砲を構えるのじゃ子。
しかしながら、掴みやすそうな髪の毛を振りまいて、しまりのないいつもの顔は変わらない。
こんな奴に諜報部員を任せるようなら、その国はどうかしているんじゃないだろうか。
某国の腕利き諜報部員『ナンバー009尾』に扮したのじゃ子。
俺たちが居るのはプーケットの手前にある小島、ピンカン島といわれる観光地である。
そしてのじゃ子が背景にしている逆三角錐のように海面にそびえ立つ島こそは、かの有名な映画シリーズ「007」で使われた舞台なのだ。
そんな映画にあやかって、ついた通称が「ジェームズ・ボンド島」。
という訳で、まぁ、のじゃ子がどうして、こんな格好をしているか、理解していただけただろうか。
そしておそらく理解していただけていないだろうが、これは番組の前振り。
オープニング映像の撮影である。
実のところ、俺とのじゃ子はすでにプーケット観光を終えていた。
終えていたが、ここであまりにも面白い――俺からしたらいい迷惑な――出来事があったわけで。
こうして某番組よろしく、解説の映像撮りを行うことになったという次第である。
あぁ、思い返すだけで忌々しい。
どうして俺はあんなことをしたのだろうか、と、正直なところこうしてネタにするのも躊躇したくらいだ。
穴があったら入りたい。日本への直行便があるなら乗りたい。そんな気分だ。
「のじゃ。英国諜報部もといディレクターからのタレこみで、プーケットの夜の街に潜入したジェームズ・加代さんこと009尾」
「ほんとなんでタレこむかな、ディレクター!!」
ごめんね、と、撮影機材の後ろで謝るライオンの鬣みたいな髪をしたディレクター。
この剛毛でいかにも異国情緒と違和感のないおっさんが、なかなかの食わせ物だったのだ。
まんまとその口車に乗せられた俺は、ほいほいと夜の街についていき――。
「ネオンの光が輝く繁華街。そのバーの一角で、加代さんは桜の裏切りの瞬間を目にしてしまうのです!!」
「いや、裏切りとか、そもそもお前とはなんでも」
「だまらしゃいなのじゃ!!」
「はい、すいません」
要は、夜のお店で、お姉ちゃん口説いて遊んでいたら、のじゃ子に見つかりましたよ、と。
そういう次第である。
温いビールに、ホットなお姉ちゃん、おいしいごはん、最高だな、とか言ってたら前に座っているんだもの。
しかもハンディカム持って。
それで、隣に座ってたお姉ちゃんだと思った子は――。
「のじゃ!! しかし、そんな桜の裏切りは、それから始まる壮大な陰謀――スタッフのどっきりの幕開けでしかなかったのじゃ!!」
「もう、ほんと、○してくれよぉ!! やだよもう、これ、勘弁してくれよ、放送するの!!」
「異国の地で色に狂った哀れなアラサー男の顛末やいかに!! 今宵も、黄金銃が火を噴くぜよ!! なのじゃ!!」
BANG!! BANG!!
そう口で言った加代。
そのまま彼女は銃を持つ手を直角に顎に沿って作り、決め顔をカメラに向けたのだった。
なんで土佐弁なのか、そして、その名乗りはちょっと007にしちゃダサくないか。
そんなツッコミも飲み込む失意の中、加代がポーズを変えていった。
「それでは、VTRスタート、なのじゃ!!」
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