第71話 電波お狐で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
ひょんなことから海賊から開放された俺とのじゃ子は、港を彷徨っているうちに、金髪ナオンちゃんひしめくビーチへとたどり着いたのだった。
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「とりあえず、リゾート地には違いなさそうだし、探せばきっと日本人くらいみつかるんじゃないか」
「のじゃ。確かにそうかもしれんのじゃ――」
言いながらビーチを見渡していた加代の首が止まる。
向けられた視線の先に居たのは、ものものしい撮影道具を持った人間たち。
どうしたことか、海岸に居る誰よりも日に焼けていない彼らは、メイン司会者と思わしき女の子を囲んでバラエティ番組の撮影中のようだった。
「そういや加代、お前って確かアイドルみたいなことやってたよな」
「のじゃ。アイドルかもじゃなくて、アイドルさんなのじゃ」
「テレビに出たら誰かに気づいてもらえるんじゃないのか?」
いや、それよりも、と、神妙な顔をする加代。
こいつにしては珍しくシリアスな顔。なにかあったのか、と、尋ねると、加代は顎に手をあてながら俺の方を振り返った。
「あれ、もしかしたら知り合いのプロデューサーさんかもしれないのじゃ」
「マジかよ!?」
「後ろ姿が見たことある感じなのじゃ。あと、スタッフさんも」
ちょっと見てくるのじゃ、と、のじゃ子がそちらに向かって駆けていく。
正面に回り込んで声をかけると、おぉ、どうしたんだとばかりに、撮影スタッフの面々が驚いた。
どうやらマジのようである。
なんという幸運だろう。
見ず知らずの土地にたどり着いて、そこに偶然にも知り合いが居合わせるなんて、なかなか有るものではない。
「これでどうやら日本には帰れそうだな――」
と、見ていた矢先、まるで助かったという感じに、カメラを向けられていた女の子が加代の手を握り返したではないか。
次々に、スタッフから肩を叩かれる加代。
なんだか風行が怪しいぞ。
と、加代が唐突に俺の方を向いて、ちょいなちょいなと手招きした。
カメラはまだ回っているような気がしないでもないが、まぁ、呼ばれたからにはいくしかない。
「すみません、なんかお仕事中にお邪魔しちゃって」
「いやいや、むしろよく出てきてくれたなって、皆で言ってたところなのよ」
「――はあ?」
「君が加代ちゃんの相方? 男の漫才コンビとか珍しいね」
「いや、コンビっていうか同居人というか」
「またまた、そんな冗談みたいなスーツを着ている癖に」
冗談もなにも普通に仕事着なんだけれども。
というか加代の奴はアイドルじゃなかったのか。コメディアンなのか。女優みたいなこともやってたような気もするが
まぁ、最近の芸能人は色々やってるのが多いからなぁ。
なんて油断しているうちに、俺はよく分からないフリップを持たされた。
「はい、それじゃ、こっち、目線くれるかな?」
「えっ? いや、ちょっと――」
「深夜少年新企画!! 東南アジア縦断カブの旅~ぃ!!」
バラエティ番組だったなら、イェイ、なんてちゃらい音声が差し込まれそうな台詞を、突然にプロデューサーと思しき男が叫ぶ。
何が何やらさっぱりと分からない俺は手に持っているフリップを見る。
するとそこには、東南アジアの地図の上に、先程プロデューサーが述べた言葉が、やたらとポップな字体で描かれていた。
東南アジア縦断カブの旅、とは。
えっ、なにこれ、水曜日がどうとかそういう番組?
「今回この企画に名乗りをあげてくれたのは、今、絶賛売り込み中の女コメディアン、加代ちゃんです!!」
「マルチタレントなのじゃ!! コメディアンってわけじゃないのじゃ!!」
「まぁまぁ、そこは置いといて――。それと、そんな彼女の相方で、彼氏さんの?」
「あ、いや、桜です、どうも」
「桜くんですね!! はい、この二人が、カブに乗ってこれから、東南アジアを縦断することになりました!!」
まばらに聞こえる拍手の音。
スタッフとのじゃ子が叩いているだけなのだが、これもきっと、放送ではきっちりと加工されて流されるのだろう。
釣られて見に来た観光客たちのなか、俺は唖然と立ち尽くす。
横を向けば、これまで見たことのないよい笑顔をした加代がいた。
「のじゃ!! 桜よ、やったのじゃ!! 妾、ついに初めてメイン番組を持てたのじゃ!!」
「うん、その、まず、状況を俺にしっかりと説明してくれ――」
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