第三部 スターダスト○ルセイダースなのじゃ編
第68話 まったくしぶくって九尾なのじゃ
「のじゃ。まさか既に機長がやられて(失神)いたとは。しかし、はじめて乗った飛行機で墜落とは、こんなことあるかのう」
「うるせえ。初めてだろうと三度目だろうと、もう貴様と一緒の飛行機には乗らん」
南シナ海。
その只中に、俺とのじゃ子は救命ボートで漂っていた。
のじゃ子が呼び寄せた天空に棲む妖怪は、なんとか虎柄のちゃんちゃんこを着た少年が退治してくれた。
だが、気絶した機長までは復活させることはできず、結果、飛行機は墜落して海上に胴体着陸。
幸いにも大陸の近くだったため、港から救助の舟がやってくるそうだが、それまでこの狭い救命ボートで二人っきりである。
まぁ、人死にが出なかっただけ、良かったという所だろう。
「のじゃ。妾がおってよかったであろう桜よ。お主ひとりでは救命胴衣をつけることはできんかったぞ。ほれ、もそっと感謝せんか」
「お前がいなけりゃ墜落することもなかっただろうよ。ありがとうよ、貴重な経験させてくれて」
「しかしまぁ、なんじゃのう、香港旅行であったか。妾せっかくなら、リゾートがよかったのじゃ。バリ島とかセブ島とか」
「だから、仕事で行くって言っただろうが!! 勝手についてきて文句いうんじゃないよ!!」
ぐぅ、と、鳴る腹。
機内食を食べる前に墜落してしまったため、ふたりとも腹に余裕がない。
余裕がなければ元気もない。
散々言い合っておいてなんだが、いつ助けが来るともわからないのに、無駄に消費するカロリーはない。やめよう、と、俺とのじゃ子は早々の和解をした。
「のじゃ、しかし、どこらへんに落ちたのかのう」
「だいぶ飛んでたからな。香港通り過ぎてるかもしらんね」
「だとすると、バリ島の方が近いかもしれんのう。よし、墜落して身体を痛めたことにして、バカンスしていくのじゃ」
「無茶いうなお前――」
バカンスする金もないし、そんなもん現地で治さず戻ってこいってなるわ。
こんな時でもお気楽脳天気なんだから。まったく始末の悪い。
だがまぁ、こんな奴でも、親しい人間が居るというだけで、幾分気が楽なことには違いないな。
それだけは素直に感謝しておくとしよう。
もっとも、居なければこんな事態にはならなかったという部分については、譲るつもりは毛頭ないが。
「のじゃ!! 桜よ、こっちに船が向かってくるのじゃ!!」
「なに本当か!!」
白波を立ててこっちへと走ってくる船。
ボートではなく、ちゃんとした船。しかも現地の軍隊だろうか、迷彩色が施されている。
「やった、これで助かった!!」
「いや、安心するのはまだ早いのじゃ――。もしかすると、船長が新手のスタ○ド使いかもしれないのじゃ!!」
「もうジョジョ○タはいいだろ!!」
「しかし安心するのじゃ。加代さん、ちゃんとスタンド使いの見分け方は把握しておるのじゃ」
と、自慢げに言う加代。
いるわけ無いだろう、そんな幽波紋の使い手なんて現実に、と、呆れていると、ようやく船が僕達の乗っている救命ボートに横付けした。
よく分からない言葉で、こっちに手招きする男。
色黒でスキンヘッド、がっしりとした体格。正直、怖くないと言えば嘘になるが、せっかくわざわざ助けに来てくれたのだ、悪い人ではあるまい。
手招きに応じて、俺とのじゃ子が船の甲板にあがると――そこには。
「のじゃ。海上でモデルガン持って、そういうサバイバルゲームかのう」
「――いや、あれ、モデルにしてはよく出来てるっていうか」
パンパン、と、二発、銃声が鳴る。
甲板で舞っていた世紀末みたいな格好をした男が、空に向かって手にしているライフルを放ったのだ。
銃口から散った煙は本物の証。
もし、それを俺たちの方に向けられていたらと思うと、ゾッとする。
そんな俺の感情を見越したように、銃を放った男はすきっ歯をこれでもかと見せつけて俺に気色の悪い笑顔を向けた。
「のじゃぁ!! 安心するのじゃ桜!! 煙を吸ったのに鼻の頭に血管が浮き出ていないから、奴らはスタ○ド使いではないのじゃ!!」
「よく見ろ。そんなのよりもっと厄介な奴らだろ、こいつら――」
どうやら俺たちは助けられたのではなく、捕まえられたのだろう。
ドクロのマークが描かれた、先程の色黒男の背中を見て、俺は確信した。
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