第64話 ラストファンタジー九尾なのじゃ

「のじゃ子。お前、最近ずっとゲームしてるが、バイトはどうしたんだ」

「しとるではないか、いま、ほれ」


 そういって、畳の上に寝転がって、テレビを指差すたれ狐。

 まったりとたるみきった顔をしていった彼女の先には、そんな彼女の容姿と瓜二つ、狐耳を生やした女戦士が立っている。


「何も、会社に勤めるのだけが、金を稼ぐ方法ではないのじゃぞ、桜よ」


 ゲーム機のコントローラを振って言うのじゃ子。

 そんな彼女の隣に、俺はコーヒーの入ったマグカップを持って座った。


 ずずり、と、コーヒーを啜る。


「何やってんだ」

「人気オンラインゲームのレベル上げなのじゃ。上位ジョブまで育てる契約で、ネットで依頼を受けたのじゃ」

「マジか。そんな仕事があるのか」

「まぁ個人契約で、知り合いから頼まれたという感じのものじゃがのう。割と気前よく出してくれるから、下手なバイトよりは割がよいぞ」


 っと、そろそろクエストに行かねば、と、加代。

 身体を起こして胡坐を組むと、ぺろりと舌なめずりして画面に食い入る。


 ゲームもできるとは現代狐は趣味まで達者だな。

 俺なんかはゲームなんぞスーファミで遊んで以来やってない。

 それでなくても、そんな食い入るようにゲームに入れ込んだ覚えがないってのに。


 まぁ、仕事柄、パソコンには、毎日食い入るように見入ってるが。


「のじゃ、のじゃ、固いのじゃ。課金アイテム使うかのう」

「おいおい、それ使ったら取り分減るんじゃないのか?」

「大丈夫なのじゃ。これも必要経費で落とせるのじゃ」

「いたれりつくせりだな」


 と、仲間であろう男戦士が、のじゃ子を追い詰めていたモンスターに、後ろから切りかかる。モンスターを一刀両断するその男戦士。

 随分とレベルが高いらしい。プレイヤーは相当このゲームに入れ込んでいるな。


 と、その男戦士が、何を思ったか、突然のじゃ子のプレイヤーキャラクターに抱きついた。


 次いで、ハートのマークが描かれた吹き出しが、その頭上に出る。


「なんだこれ」

「のじゃのじゃ。この人が、妾の依頼主なのじゃ」

「はん?」

「居間の彼女さんと一緒にこのゲームがやりたいそうでな。その彼女さんが使う嫁キャラを、こうして妾が育てておるのじゃ」


 そりゃまたけったいな依頼なことで。

 そんな依頼を出す方もどうかしているが、受ける方もどうかしているな。


 とか思っている間にも、男戦士はハートマークを画面に乱舞させる。

 やめい鬱陶しい、といいつつ、加代のキャラも合わせてハートマークを出す。


 こりゃなんだ、地獄絵図か。


「こういうサービスもせにゃならんのが、辛いところよのう」

「やめたいならやめればいいじゃないか」

「そうはいかんて。引き受けたからには最後までやるのが妾の仕事人としてのプライドじゃ。天災でも起きん限りには――」


 そうか、と、言って、俺はゲーム機のコンセントを引っこ抜いた。


 のじゃぁ、狐の叫び声があたりにこだまする。


「ななな、なにするのじゃ、桜よ!!」

「別にネットゲームなんだからオートセーブだろ。気にすんなよ」

「そういうことではなくてじゃな!!」


 なんでこんなことをするのじゃ、と、問い詰めるのじゃ子。

 知るか、久しぶりに訳もなく、お前をいじめたくなったんだよ。


 ふん。


「のじゃ!! もう、これで相手さんが怒ったらどうしてくれるのじゃ!!」

「別にいいだろ。なんか言ってきたら、さっきのプレイ動画でも撮ってあるから、彼女の送りつけるぞとか、適当に言ってやれよ」

「のじゃぁっ!! もうっ、何を怒ってるのじゃ、意味が分からんのじゃ――」

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