第63話 迷子のお知らせで九尾なのじゃ
遅い。
駅郊外にあるショッピングセンター。そのアーケードフロアの椅子に腰掛けて、俺は加代の奴が帰ってくるのを待っていた。
「バイトのお給料入ったし、ちょっとよさげな洋服買ってくるのじゃ」
そう言って茶封筒を手にほくほくした顔をする彼女と別れてはや一時間。
三十分後に、ここ、時計台近くのベンチで集合という約束をすっぽかして、九尾は帰ってこなかった。
「さては尻尾が入るズボンがなかったな。あの太まし狐め」
まぁ、尻尾が九本もあれば、ズボンは尻尾をひっこめないと入らない。
単に八つ当たりの悪口である。
九尾と言っても所詮は女の子。お買い物となると、ついつい時間を忘れて、色々と見て回ってしまうのだろう。
やれやれ、と、俺はあきらめて、スマートフォンを取り出した。
こうなったら直接呼びつけてやるほうが早い。
と、その時、館内アナウンスが頭上に流れた。
「迷子センターからお知らせです。ご家族でお越しの桜さま。お連れ様が、一階迷子センター前でお待ちでございます」
違った。
あの野郎、どうやら迷子になっておられたらしい。
というかいい大人がなに迷子になってるんだよ。
スマートフォンをさっさとしまうと、俺はアナウンスにあった、一階迷子センターへと向かった。
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「のじゃぁ!! お父さん、遅かったのじゃ!! 心細かったのじゃ!!」
迷子センターで俺を待っていたのは、なるほど、確かにどこからどう見ても迷子の女の子だった。
金色の髪に悪戯っぽい顔つき、ぶかぶかの幼児服。
そして、それに似合わぬ、ブランドのロゴが入った買い物袋。
「ロリになっとる」
それは間違いなく、加代ではあったが、いつもの加代ではなかった。
「にょほほ、どうかえ、ロリ加代さんなのじゃ。ロリ狐とはまたマニアックな層にバカウケのフォームであろう」
「そして絶妙に可愛くない」
「なんじゃとぉ!!」
というかおまえなんでそんな格好。
衝撃的な同居人の変身に言葉を失った俺が立ち尽くしていると、ふと、迷子センターの職員さんが俺に近づいてきた。
「娘さんですけど。女児向けの下着コーナーで泣いているところを保護しまして」
「のじゃ!! それは言ったらいかんのじゃ!!」
あぁ。
そうだな。
お前、あれだ、胸が薄すぎて、大人向けのブラはサイズ合うのないものな。
大人の姿でそれをつけるのはしのびなかろうて。
俺はこのオキツネさまが、どうしてロリ化してしまったのか、その理由に納得して相槌を打ったのだった。
「なんじゃその眼は!! 違うのじゃぞ桜!! 妾は別にそういう目的では!!」
「なにも言うな加代さん。よいよい、いいんだ、俺は分かってるからな」
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