第59話 ペットボトル地獄で九尾なのじゃ

 のじゃ子がたたみの上で腹を出して転がっていた。

 へそ丸出しの、尻尾も耳も丸出しの、完全に気の抜けたオキツネモードである。


 暑い時期だからっていくらなんでもだらしのない。


 と、そんな彼女の横に、転がっているのは空になったコーラのペットボトル。


「おいのじゃ子。またそんなペットボトル飲料買ってきて。片付けるのが手間だからやめろって言っただろうが」

「のじゃ。そうは言うても、時々甘いものとか炭酸とかが飲みたくなるのじゃ。しょうがないのじゃ」


 だったら外で飲んで来い。

 んで、ペットボトルは外で捨てて来い。


 そう俺が何度注意しても、こののじゃ狐は学習しない。

 ペットボトル飲料をこうして何かにつけて買ってくる。


 おかげさまで月に二度、潰れたペットボトルがパンパンに詰まったビニール袋を、朝一番に捨てにいかなくちゃならない、俺の気持ちを考えてくれ。


 やれやれ、まったく。


 俺は溜息を吐くとのじゃ子の横に転がっている、空のペットボトルを手に取った。

 台所の横、ペットボトルをまとめたゴミ箱に、それを捻って潰して丸めて入れる。


 いささかその所作が乱暴になったのは、いうことを聞かない駄女狐に、おおいに怒っていたからだろう。


「桜よ、もちっと、静かにやってくれんかのう」

「だったら自分でちゃんと始末しろ!!」

「酒宴の片付けは使用人の勤めであろう」

「誰が使用人だ。この居候がえらそうに!!」


 ごろりごろりと、だらしなく転がるのじゃ子の腹に、俺は手を当てた。

 のじゃ、と、マヌケな顔をする。


「な、何するのじゃ?」

「そうさね。冷房の効いた部屋でだらしなく過ごして、ちと運動不足気味なオキツネ様に、エクササイズでも――と!!」


 アルカイックにスマイルすると、俺は彼女の無防備な横腹に、指先を躍らせた。


「の、のじゃぁああああっ!! のじゃ、くひゃひゃっ!! のじゃっ!!」

「おらぁ!! 人様の家に寄生して、毎日くっちゃねくっちゃね!! 少しは反省しろ、この駄女狐!! この、まいったか!!」

「のじゃっ!! のひゃひゃひゃっ!! 参った、参ったのじゃ、参ったからやめて――のひゃひひゃ!!」


 と、その時、のじゃ子の足が、押入れの襖を蹴った。


 するとどうだろう、まるでそれで、堰が切れたように襖が手前に倒れ、そこから、大量のペットボトルが落ちてきたではないか。

 ペットボトルの洪水。

 なんだ、これは。


 俺とのじゃ子はペットボトルの中へと沈んだ。

 ペットボトルを払い除けて、襖を押しのけて脱出すると、俺はふいと視線を逸らして横たわるのじゃ子を睨んだ。


「のじゃ、最近、とっても暑かったから。つい、買っちゃったのじゃ」

「買っちゃったのじゃじゃねぇ!!」

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