第58話 ギャンブルは適度な遊びで九尾なのじゃ

「桜よ。妾、今日はお主がどうしても、外せぬ用事があるというから、お風呂の掃除当番を変わってあげたのじゃ」

「そうだな」

「お主にも人付き合いというものがあるじゃろう。そう思って、この寒い中、妾はごしごしお風呂をこすっておったのじゃ」


 なのに。


 どん、と、コタツ机を叩いたのじゃ狐。

 籠に入っていたみかんが揺れて、ぽろりとその一個が転がった。


 と、同時に、その縁に載っていた――黄褐色したメダルもまた、宙を浮いて加代の膝の上へと落ちた。

 それを拾い上げて、水戸黄門の印籠のように、こちらに近づける加代。

 言わんとすることは、よく分かった。


「なのになんでこれがズボンの裾から出てくるのじゃ!!」

「――いや、違うんだよ。それはあの、ゲームセンターのコインで」


「CMで流れてる会社のロゴがばっちり入ってるのじゃ!! というか、ゲーセンがお主の大切な用事なのかえ!!」


 いいじゃねえかお前、たまにはパチンコ行ったって。

 俺だって社会人なんだから、それなりにストレス溜まってんだよ。たまには無軌道に金をつかって、発散したいとかそういう気分にもなるんだよ。


 今日は、俺が会社帰りによく寄る、大型ホールの月1イベントの日である。

 全設定6とは行かないが、それなりにイベントで設定を入れることは、常連たちによく知られており、小金もあった俺は久しぶりに朝から列に並んだわけだ。


 まぁ、くじ運悪くて、結局負けたけど。


「のじゃ!! ギャンブルをするのは別に構わないのじゃ、けど、こうやって人に嘘をついてまで、行こうとするのはもはや病気なのじゃ!!」

「いやいや、お前、狐じゃんかよ」

「だまらっしゃい!! なのじゃ!!」


 ぷりぷりぷんすかと怒髪天を突くオキツネ様。

 尻尾も耳もすべて出して、その先を天へと向けている。


 こりゃまた、継続率の高いモードに入ってしまった、と、俺は内心苦笑いした。


「桜よ。妾はこれまで、ギャンブルに手を出したばっかりに、人生を棒に振ってきた人間を幾人も見ておる」

「まぁ、それでなくても、人生を狂わすのがお前の仕事みたいなもんだものな」

「皆、国を顧みなくなった時から転落していきおったわ。のじゃ、桜よ、自分にとって何が大切か、今一度、胸に手を当てて考えてみい」


 スケールのでかい話過ぎて俺にはさっぱりだ。

 国も何も、自分の家さえ持っていない俺に、そんなことを言われても困る。

 

 ほれ、と、胸の辺りを指差して、こちらを見る加代。

 どうやら胸に聞けということらしい。


 面倒くさいが、やらなくてはいけないのだろう。

 まったく、やれやれ、まったくと、俺は悪態をつきながらも、しぶしぶと自分の胸に手を当てた。


「どうじゃ、お主にとって、妾とパチンコ、どっちが大切なのじゃ」


「――パチンコかなぁ。マリリンちゃんの方が、おっぱい大きいし」

「のじゃ!! そういう話じゃないのじゃ!! おっぱい関係ないであろう!!」


 いや、お前が、ギャンブルに傾倒させないくらいに、魅力的だったらいいんだろうがよ。このツルペタすってんどんのあぶりゃーげきつね様め。


 悔しかったら、少しでも胸出してみろ。

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