第57話 牛丼定食おまちどうで九尾なのじゃ
「のじゃ、桜よ!! バイト先には来るなと、あれほど申しておいたであろう!!」
申しておいても出会っちまうのが俺たちだろう。
でなきゃ一緒に暮らすこともなかっただろうに。
仕事の昼休み。気分を変えて、派遣先の社内食堂から、オフィス街の牛丼屋に移動した俺は、そこでのじゃ子とばったりと出くわした。
別に来るつもりもなかったし、会うつもりもなかった。
そもそも、今、牛丼屋でこいつが働いていることからして知らなかったのだ。
「なんだよ、今の職場はここだったのかよ。早く言えよな」
「一週間前に言ったのじゃ。お主が忘れておったのであろう」
「まぁ今週は忙しかったからな」
それよりお前、日勤か、と、俺は加代に尋ねた。
夜勤もクソもないだろう。
今ここでこうして働いているのだから。
昼休みから、深夜まで働きづめとか、そりゃどんなブラック企業だっての。
案の定、今日は六時で上がりなのじゃ、と、加代。
なるほど六時か、と、俺は手元のスマートフォンでこのあとの予定を確認した。
「おう、だったら、俺も七時には仕事終わるから、飯でも食ってかえろうぜ」
「のじゃ? どういう風の吹き回しなのじゃ?」
なんだよその言い草は。
別に同居人が近くで働いてて、帰る時間が一緒なら、飯を食べて帰ろうくらいのことは思うだろう。
それとも何か、俺はそんなこと気にせず、さっさと帰るような冷血なお仕事マシーンとでもいいたいのか。
なにお客さんと話しこんでんだい、と、のじゃ子を叱る声。
後ろから飛んできた注意に、すみませんなのじゃ、と、振り替えって答えた加代。彼女は俺をにらみつけると、お主が変なことをいうから、と、目で訴えかけてきた。
別に変なことは言ってないだろう。やれやれ。
「悪い悪い。仕事の邪魔だったな」
牛丼定食一つ、と、注文すると、俺は加代を解放する。
オーダーを読み上げて厨房へと引っ込んでいく彼女。すぐに彼女は牛丼とおしんこが載った盆を運んできた。
「のじゃ。はよ食うて仕事場に帰るのじゃ」
「へいへい。いらんこと言ってすまんかったな」
そっけなくまた厨房へと戻っていく加代。
本当にいらないことをしたな、と、反省して俺は目を伏せた。
ふと、牛丼の横に置かれている伝票、その裏に、何かかかれているのに俺は気がついた。なんだろうかとめくってみれば――。
『角の喫茶店で時間つぶしてるのじゃ。遅れるなら連絡するように。』
と、赤いペンで加代の文字が書かれていた。
あいつ、まったく――。
「これだとお前、レジ打つときに他の店員の目に触れるだろう」
レシートとかもうちょっと書くもの考えろよ、と、思いながらも、俺は加代のそんな思いやりを、少しばかり嬉しく感じた。
「店員さん、悪い、卵追加ね」
「のじゃ!! そういうのは最初の注文のときに、まとめていうのじゃ!!」
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