第55話 オキツネットで九尾なのじゃ

『寝そべるだけで豊胸ワンダーパーイ♪』


「のじゃぁああ!!」

「うるせぇ、どうしたいきなり大声出して」

「桜、桜よ、見るがよいのじゃ!! すごい商品が出たのじゃ!!」

「んだよ、ワンダーパイじゃねえか」


 ワンダーパイ。

 一昔前に流行った豊胸用の通販アイテムである。


 よくあるダイエット通販商品並に流行ったアイテム。

 女でなくってもその存在を知っているような一品だ。


 つい一年くらい前に力を入れて宣伝していたのだが、最近はブームも去ってしばらくテレビで見なかった。


 まだこんなCMやっていたのか、という驚きと、今更これではしゃぐのかという驚きで、俺は加代を見た。


 尻尾は九つもあるのに、胸はAカップもない貧乳お狐さまは、まるで目を星のように輝かせて、テレビコマーシャルに見入っている。


 駄目だこれは。

 完全に食いついている。


『なななんと、ワンダーパイを一週間続けるだけで、Bカップしかなかったみどりさんの胸が、Cカップに!!』


「すごいのじゃ!! たった一週間でサイズが1つあがるなんて!!」

「太っただけじゃねえの?」

「夢のないことを言うでないのじゃ!! こうしてちゃんと商品として売っているのだから、効果があるに違いないのじゃ!!」


 どうだかなぁ。

 効果が本当にあるのなら、こんな長々と個人の感想をだらだら流すものなのだろうかねと、俺なんかは勘ぐってしまうけれど。

 ほっといても効果があるなら口コミで広まるだろうし。


 まぁ、これも個人の感想ですが。


『今まで、胸を強調する服については、どうしても及び腰だったんですけど、ワンダーパイのおかげで思い切って着れました!!』


「そうじゃのう、そうじゃのう。胸が大きいと、服の可能性も広がるからのう」

「そんなこと言ったら胸がなければ子供服をずっと着続けられるじゃないか」

「だからさっきから何を夢のないことを言っておるのじゃ!! おっぱいのある妾とない妾、どっちが魅力的か考えてみよ!!」


 どっちも別に魅力なんて感じないんだな、これが。


 だってお前狐だし。

 主食がつい最近まで、昆虫とか哺乳類だった奴だし。


 おっぱいがあろうとなかろうと、人外狐娘が俺のストライクゾーンに入ってくる可能性など皆無。


 人類を、俺たちをなめるな!!


『今ならなんと、ワンダーパイ一台をお買い上げで、もう一台ついてくる!!』


「のじゃぁあぁあぁっ!! 一台分のお値段で二台買えるなんて、超お得なのじゃぁあああっ!!」

「お得か? 二台あっても邪魔なだけだろ」


 完全に在庫処分に来ているな、ここの通販会社。

 一時期の人気は確かにすごかったからな。

 売り抜けるタイミングを逸したか、哀れな奴め。


 と、そんなことを考える俺の前で、アホ狐が自分の携帯電話を手に取る。


「お前、正気かよ」

「今しかないのじゃ!! 一台分で二台買えるのは先着50名さままでだから、急がなくちゃいけないのじゃ!!」

「だからそんな二台もいるかって。そもそも、二台買ってどうするんだよ――」


「二台あれば、お主も一緒におっぱいを育てられるであろう!!」

「俺は男だっての!!」 

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