第49話 お洗濯日和で九尾なのじゃ
「ほれ、桜、はよ起きるのじゃ。今日は洗濯日和、お主のパジャマも洗ってしまうのじゃ」
早朝、まだまだ空気の暖まり切らないところに、俺は九尾狐にたたき起こされた。
手にしているのは俺愛用のオフトゥン、そして、モウフゥ。返せよ、と、手を伸ばせばダメなのじゃと彼女はそれをひょいと上に持ち上げた。
「まだ出社までに時間があるだろう。もうちっと寝させてくれよ」
「駄目なのじゃ。せっかく気持ちのいい朝なのじゃ、お洗濯して、一緒に朝食食べるのじゃ」
「新婚さんじゃねえんだぞ」
「のじゃ!! 誰もそんなこと言っておらんのじゃ!! 変なこと言うななのじゃ!!」
顔を真っ赤にして、ぷりぷりと、尻尾を振って窓辺へと向かう加代。
引っぺがした布団も干すつもりなのだろう。やれやれ、これでは二度寝は絶望的だ。
仕方ないなと俺はあきらめると、着ていたパジャマを脱ぎだして、脱衣所へと向かった。
「桜ぁ!! 洗濯機にもう仕込んであるのじゃ。パジャマ放り込んだら、廻しておいて欲しいのじゃ!!」
「お湯がぬるくなるから嫌だぁ!!」
「贅沢言うでない!! 時は金なりなのじゃぞ!!」
すっかりと所帯じみた狐娘に言われて、俺は仕方なくぬるいシャワーを受け入れた。
洗濯機に脱ぎたてほやほやのパジャマと、トランクスをぶち込んで、洗濯開始のボタンを押す。
洗剤を振りまいて回転したそれが、洗濯槽内に水を注ぎこんだのを確認すると俺はそれに蓋をした。
やれやれ。朝から洗濯なんて、何年ぶりだろうかね。
「のじゃぁ!! はやくシャワー浴びてキッチンに来るのじゃ!! 今朝は目玉焼きなのじゃ!!」
「お、久しぶりに油揚げじゃないのな」
「無駄口たたくでないのじゃ」
へいへい、と、口を閉じようとしたその時だ。
ぶすん、ぶすんと、いきなり妙な音を立てて洗濯機が止まった。
なんだ故障か。おい、まだ買って一年も経っていないっていうのに、どうした。
――――
「違うのじゃ桜。妾は決して、寝全ケモやらかしたのをごまかそうとしたわけじゃ」
「じゃぁ、この排水溝に詰まった大量の毛はなんだ」
「そそそ、それはその――」
「排水溝つまるから寝全ケモするなっていっただろう、この駄女狐、この駄女狐!!」
「のじゃあっ!! のじゃあっ!! もうしないのじゃぁ!! 反省するから、尻尾ぺんぺんやめて欲しいのじゃ!!」
のじゃああああ。
全ケモモードで尻をはたかれる、アホ九尾の叫び声が、朝のアパートにこだました。
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