第48話 あなた、誰なのこの娘はで九尾なのじゃ

「のじゃ。お主、根暗なくせに結構知り合いおおいのじゃな」

「人のスマホ勝手に見てるんじゃねえよ」


 お前は俺の奥さんか何かか。


 いったいいつの間にそれを手に入れたのか知らないが、炬燵に入りながら加代は俺のスマートフォンを握りしめていた。

 まぁ、別にみられて困るような相手はいない。


「のじゃ!? ちょっと、誰なのじゃ、この『みずきちゃん』って!!」

「え? 誰だよ」

「しらばっくれるななのじゃ!! 妾というものがありながら、浮気していたのか、桜よ!!」


 いやだから、お前は俺の嫁さんか何かか。

 別にそうだったとして、ただの居候であるお前に何か関係のある話なのかよ。


 これを見よ、控えおろうとばかりに、俺にスマホを差し出すのじゃ狐。

 確かにそこには『瑞樹』という俺の知り合いのアドレスが映し出されていた。


 まぁ、男だが。


「高校時代の友人だよ。メール見てみろ、仕事の愚痴しか言ってないだろ」

「そんな見え透いた嘘をつきよってからに。どれどれ――ほんとじゃ」

「な、男だろう」

「信じられん。見事に仕事の愚痴しか言っておらん、上司と、取引先と、営業の悪口ばかりじゃ」


 友達なのであろう、もっと他に話すことはないのか、と、加代。

 ないなぁ。というか、学生時代と違って会える時間が限られるのだから、そりゃ話題もそういう無難なものになってしまうだろう。


 なんにせよ、あほ狐はそれで納得してくれたらしい。

 ならいいのじゃ、と、まるでなんでもなかったように、のじゃのじゃとそれを眺め始めたのだ。


 うん、まぁ、ねぇ。

 浮気という訳ではないけれど、ガールズバーの娘のアドレスくらいは入ってるんだが。

 それには気づかないのかね。


 まぁ、登録名を「取引先 多摩部長」としているからな。分からんか。


 うん、こんなやり取りをしていたら、久しぶりに構ってやりたくなった。

 このあほ狐と違って、彼女はまぁなんというか、保護欲を掻き立てるタイプなんだよな。

 あんまりお酒も強くないから、成績もよくないみたいだし。


「もう良いだろ。ほれ、返せよスマホ」

「のじゃ。仕方ないのう。しかし、これで逃げおおせたと思うでないぞ、妾は常にお主の浮気に目を――」


 はいはい、分かったからはよ返しんさい。

 俺は加代からスマートフォンを無理やり取り返すと、アドレス帳から多摩部長を探してメールを打った。


 ここ最近遊びに行けなくてごめん。今日の夜そっちに行くよ、と。


「のじゃ。そんなことやってたら、妾もケータイが」

「お前のは管狐じゃなかったのかよ」

「仲間内ならこれでよいのじゃが。っと、すまん桜よ、今日はちと急用ができてしまった。夜遅くなるわ」

「なんだそうなのか。気にするなよ。お前がおらん方が、こっちも羽も足も延ばせて都合がよい」


 酷いこというのうお主、と、むくれる加代をしり目に、俺は久しぶりに会う多摩部長のことを考えていた。


 そういやあの娘も、のじゃのじゃいう娘だったっけかな。

 同じのじゃでも、こいつとはえらい違いだな。どうしてだか。

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