第45話 トイレットペーパーがなくて九尾なのじゃ

「のじゃ。桜よ、トイレットペーパーがもうワンロールしかないのじゃ」


「マジか。最近、お前が暮らすようになってから、減りが早いな」


わらわのせいにされても困るのじゃ!! 単純にお主が使いすぎなのじゃ!!」


 使いすぎって。


 別にダブルを二重巻きしている訳でもなし。

 なにの仕方が豪快という訳でもなし。

 そんなことはないだろうがよ。


 きっと。


 顔を真っ赤にして怒った狐娘を無視して、俺はトイレに向かう。

 なるほど、便器の横に置かれているビニール袋には、確かにのじゃ子の言う通り、もう一つしかトイレットペーパーがない。


「コンビニで買ってくるか」


「のじゃ!! コンビニはいろいろと高いのじゃ!!」


「えぇ、まぁ、そうだけど……」


「川向こうの業務用スーパーにするのじゃ!!」


「いやお前、そこまでいく労力のがかかるだろう」


 川向こうのスーパーまでは自転車で十分。

 歩きで三十分ほどかかる。


 確かに加代の言う通り、そこで買った方が百円くらい安い。

 だが、そんなことのために歩く気にはなれない。


 だいたい百円で何が買える、何ができるという訳でもない。

 それなら、近くのコンビニでさっと買ってしまった方がよくないか。

 時は金なり。貴重な時間を、金で買うことができると考えれば、コンビニで買うのも悪い話ではない――と、俺は思う。


 しかしながら妙なところで現代じみているのがこのお狐さま。


「ダメなのじゃ。無駄遣いは生活の敵なのじゃ」


「無駄遣いって」


「百円、十円をこつこつ貯める所から、貯蓄というのははじまるのじゃ」


「うへぇ、ありがたいお説教だこと」


 大陸の国々を怠惰と浪費で疲弊させて滅ぼした九尾の狐。

 それがまた、よくもまぁ無駄遣いなんて言葉を口にしたな。


 至極まっとうに正論ではあるが。

 彼女がそれを言うことに違和感を感じずにはいられない俺がいた。


「分かったわかった。それじゃこうしよう」


「のじゃ?」


「じゃんけんで負けた方がトイレットペーパー買いに行く――それでどうだ?」


「のじゃ。それで構わないのじゃ」


 言っておくが、わらわはじゃんけん強いのじゃ、と、無駄にすごむのじゃ子。

 そんなやり取りしてるのも面倒くさい。

 俺はさっさとじゃんけんの音頭を取ったのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


「ただいま。うぅ、さぶさぶ」


「おかえりなのじゃ。なんぞ、おもったより早かったのう」


「まぁな」


「どれどれ。トイレットペーパーは無事に買えたのじゃ?」


「買えなかったらおかしいだろう。いったいいつの時代だっての」


 言葉の通り、のじゃ子はじゃんけんが強かった。

 あっさりと彼女に負けた俺は、この寒空の下、しぶしぶとトイレットペーパーを買いに走ったのであった。


 コンビニに。


「のじゃあっ!? 桜、これ、セ○ンイ○ブンって書いてあるのじゃ!?」


「書いてあるな」


「川向こうのスーパーへ行ったのではなかったのかえ!?」


「俺はトイレットペーパー買いに行こう、って、言っただけだぜ?」


「のじゃぁ!?」


「別にスーパーで買うともなんとも言ってない。そして、買い出しの役目を受け持った以上、俺が、どこでそれを買おうが――それは俺の自由!!」


 のじゃじゃ、と、激昂して尻尾を出すのじゃ子。


 なんでなのじゃなんでなのじゃ。

 炬燵を飛び出すや彼女は俺に殴りかかってきた。


 ネコパンチならぬお狐パンチ。

 意外と重たいが、まぁ、耐えられないものではない。


 ふははっ、馬鹿めまんまとかかったな。

 これだから畜生は扱いやすくて助かるぜ。


「のじゃぁ。百円あったら、おいなりさんが二個は食べられるのじゃ」


「おいなりさんで例えるなよみみっちい」


「油揚げだったら二パック。大安売りの日なら三パックは買えるのじゃ。のじゃぁ、もったいないのじゃ、ありえないのじゃ」


「そんなしょっちゅう油揚げ食べたくないっての」


 それでなくても、ほぼ毎朝、油揚げの味噌汁だってのに。


 やれやれ。

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