第44話 お風呂上りで九尾なのじゃ

「のじゃぁ、いいお湯だったのじゃ」


「おう、お前ようやく風呂入ったのか」


 例によってバイトを辞めて、次の仕事を探し中――。

 という体で、だらだらと毎日を過ごしていたのじゃ子。


 ここ数日というもの、炬燵にこもってずっとマンガを読んでいた彼女。

 根っこが狐だからだろうか。

 気が付くと、彼女は女性とは信じがたいを発するようになっていた。


 いわくケモ臭。


「獣だからしかたないのじゃ」


 とのことだが、知ったこっちゃねえ。

 さっさと風呂に入れと炬燵から引っ張り出して、浴室に押し込んだのだ。


 見れば全身黄色。


 すっぽんぽんで出てこないだけマシだなと思いきや、全ケモモードの加代。

 バスタオルを巻く必要もないくらいに、その体はみっちりと金毛で覆われていた。


 水にぬれて怪しく光るその姿は――。


「どうじゃ、妖艶であろう、艶やかであろう」


「ほらぁっ、何濡れたまま出てきてんだ!!」


「のじゃ!? ちょっ、やめるのじゃ桜!!」


「部屋が濡れるだろう!! ちゃんと身体を拭いて出ろ!! この獣!!」


「こしょばゆい、のじゃ、のじゃじゃじゃっ!! やめっ、のじゃっ!!」


 ただの図体のでかい濡れた駄犬だ。


 残念ながら、俺にはそういう性癖はない。

 こういうの好きな人にはたまらんのだろうがね。


 まぁ、得てして、望むところにそういうものは納まらないものだ。


 わっしわっしとちょっと乱暴に加代の体を拭きあげる。


「のじゃあっ、やめてたもれ桜ぁああ!! そんな、乱暴な!!」


「だったら自分でちゃんと拭け!! まったく、お前は本当ずぼらなんだから――」


 ひとしき彼女の体を拭きあげると、俺はバスタオルを炬燵の前へと放った。

 膝を折りうつむく加代。


「のじゃぁ、妾、汚されてしまったのじゃ」


「風呂入ったばっかりじゃねえか」

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