人間の生活はたいへんなのじゃ編

第43話 ブルジョワジーで九尾なのじゃ

「おい、のじゃ子」


「のじゃ?」


「お前も少しは家事を手伝え」


「のじゃのじゃ。加代さん、のじゃ子なんて名前じゃないのじゃ」


「屁理屈はいいから。ったく、毎日毎日、炬燵に引きこもって仕事もせずに――」


 我が家の炬燵にすっかりといついてしまったネコ目イヌ科の化け狐。


 まだ雪も降っていないというのに。

 そしてこんなに明るいうちから。

 どうしてどうして丸くなる。


 部屋に居つかれただけでもこちとら勘弁だというのに。

 せめてまっとうに働いていただきたいものだ。 


 尻尾をふりふり。

 炬燵布団の淵からだして毛を辺りにふりまくのじゃ子。


 その姿に苛立ちを感じた俺は、その尻尾をおもいっきり踏み抜いてやった。


 案の定、炬燵の天板が吹っ飛んだ。

 その上に載っていたみかんとリモコンが宙を舞う。


「な、な、なにするのじゃぁっ!!」


「おめえが部屋を汚すからだろ」


「桜ぁっ、九尾の尻尾はデリケート!! デリケートゾーンなのじゃぁっ!!」


「そんなデリケートゾーンならあけっぴろげにしとくんじゃねえよ」


「のじゃぁ、それでもいきなり踏み抜くなんて、鬼なのじゃ、鬼畜なのじゃ!!」


「いや九尾に言われたかねえ」


「おお怖い、ごん狐並に理不尽なのじゃ!!」


「ごん狐って……というか、お前が理不尽を語るかね」


 だいたいだ。

 俺にまったくなんの相談もせず借りていた自分のアパートを引き払い。

 緑の風呂敷を担いで俺の部屋へ転がり込んできたお加代さん。


 何が、「一緒に棲めば生活費が浮くのじゃ」だ。

 お前がくっちゃねしかしないせいで、エンゲル係数がうなぎ上りなんだよ。


 少しは働いて家にお金入れろってんだ。


 それかせめて、家事を手伝え。

 なんもせんのだから。


 やれやれ、これだから、寄生するだけしか能のない女狐は。


「掃除もダメ、洗濯もダメ、せめて料理くらいはできてもいいんじゃないのか」


「料理なんて放っておいても出てくるもの。わざわざ作る必要なんてないのじゃ」


「ちっ、ブルジョワジーめ」


 数々の後宮に出入りして、贅沢三昧な生活をしてきただけはある。

 やはり九尾は言うことが違うね。


 やれやれ、俺もそんな何もしなくても三食が出てくる生活をしてみたいよ。


「最近はちょっと大きめの公園に行くと、親切な高校生や奥様方が、温かい豚汁とか恵んでくれるのじゃ。よい時代になったものなのじゃ」


「ううん、前言撤回」


 やだ、現代の九尾ってばたくましい。


 今度おいしいもの食わしてやろう。

 俺はのじゃ子にばれないように、そっと目じりを指で拭った。

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