第40話 結婚相談で九尾なのじゃ

「のじゃのじゃ。なるほど、つまり理想の相手は、おっぱい大きくてやさしくて、小動物のような愛くるしさのある――うぷっ、うぷぷっ」


「これ職権乱用とかそういうのにならんのか」


 親にどうしてもといわれ、やってきた結婚相談所。


 だいたい会いたくないところには、狙ったようにやってくる加代である。


 そりゃいるんじゃないかなとは俺も思ったよ。


 けどな、なんで狐が人間の結婚相談なんてすると思うだろうか。

 そんなもの興味ないだろうし、獣ごときにそんな相談ができるはずもないだろう。


 と、まぁ、タカをくくっていたのだ。


 で、これである。


「のじゃのじゃ!! お笑い種なのじゃ!! お主、意外と結婚相手に対して理想が高いのじゃのう!! 鏡を見たことあるのかえ?」


「うっさいボケ!! どんな嫁さんがほしかろうが、別に構わんだろうが!!」


 ゲタゲタと笑う九尾女。

 自分が男をたぶらかしてきた毒婦だからって、そういうこと言うかね。


 はいはい、どうせ俺は高望みがすぎますよ。

 俺は開き直って九尾さんからそっぽを向いた。


「のじゃ、そう拗ねるでない。まるで小物みたいじゃぞ」


「どうせ俺は狐に笑われる程度の小物でござい」


「じゃから拗ねるな。のじゃ、安心するのじゃ、このとっても親切、お見合い狐の加代さんが、理想はともかく幸せになれる相手を探してあげるのじゃ」


 この、コンピュータでな、と、九尾さん。


 取り出したるは、なんとまぁ。

 ファイアなフォックスみたいなマークの書かれたノートパソコンである。


 そこは神通力とかじゃないのか。


 わぁい、超不安。

 てか、なに、コンピュータって。

 お狐でも中に入ってるの。


「どれどれ、桜よ、まずはおんしの年齢からじゃのう。今年で何歳じゃ」


「さ――二十九歳と二十九か月」


「三十一歳なのじゃ!? 意外と歳を食っていたのじゃの」


 悪いか。

 別に三十過ぎて独身の男なんていくらでもいるだろう。


 だいたいだな、男なんてのは、三十過ぎてからが本番なんだよ。

 それまではほれ練習期間というものだ。


「これまでの女性経験は」


「キャバクラくらいなら」


「それは女性経験とは言わんのじゃ!! なんなのじゃ、ふざけてるのじゃ!!」


 はい、練習も大してしてこなかったですよ。


 仕事が忙しかったんだよ。

 男子高校だったんだよ。

 思った以上に出会いがなかったんだよ。


 ほんとどうでもいい狐ばかりには出会うのにな。


「のじゃぁ、経験値がなさすぎて話にならないのじゃ」


「経験がなくっても何とかするのがお前らじゃないのかよ」


「0に何をかけても0というのが真理。まいったのう、これではどうにも――」


 はっ、と、のじゃ狐が何かをひらめいたらしい顔をする。


「のじゃ、人間でなければあるいは。妾の知り合いで、憑りつく先を探して居る仲間をいくらか紹介してやろうかのう」


「うん、それはもう、まにあってます」


 流石に十八尾は俺も養えません。

 勘弁してください。


 

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