第39話 のじゃ+で九尾なのじゃ

「雪、積もってるのじゃ?」


「そこは真琴じゃないのかよ!?」


 下手に口にしようものなら多方面に喧嘩を売ったことになる危険なセリフを口にした狐娘に、俺はハリセンをくらわした。


 のじゃ、なにするのじゃ、と、アホ狐はこちらをにらみ返す。

 その姿はいつものラフな――ジーパンにTシャツ姿ではなく、なんとも現代的な臙脂色したブレザーとスカートによって包まれていた。


 そこまでセッティングしておいて、なぜ。


「のじゃ、ツッコまれてもこまるのじゃ、妾はこれ着てこのセリフを言うように、監督さんから指示されただけなのじゃ」


「なんだよ、知らずに言っていたのか」


 そのセリフが、俺たちの世代的に、どれだけの重みのあるものか――。

 わかっていたらこんな気軽に口になぞしないか。


 しかしまぁ、よくもそんなマニアックな作品の格好をしてきたものだ。

 いったい今度は何の職業にありついたのか。


 コスプレか。

 なるほど、ついにそういうビデオに出ることになったか。


「のじゃのじゃ。今度、妾が声を当てたゲームが発売になるのじゃ。それで、その宣伝にとこの衣装と台本を渡されたのじゃ」


「まさかの斜め上の展開」


 ゲームとな。


 声優とな。


 この展開でそう来るとは予想外だったよ。


 なるほど、確かに天然モノののじゃロリババ声である九尾さんだ、そういう需要はあるのかもしれない。


「ちな、レートは?」


「レート? なんの話じゃ?」


 X指定かと思いきや、そうでもないのか。

 きょとんとした顔をしているあたり、普通に恋愛ゲームか何かだろうか。


 どんなゲームなんだよ。

 俺は再びオキツネ娘に聞き直した。


 すると、待ってましたとばかりに、のじゃ狐はどや顔を俺に返して見せた。


「なかなか面白い内容のゲームだったのじゃ。二十四時間、三百六十五日、リアルタイムにゲームが進行するのじゃ」


「ほうほう」


「内容はオーソドックスな恋愛ゲームで、女の子とお話しして好感度をあげていくのじゃ。もっとも、さっき言ったように、リアルタイムで時間が進行するから、話しかけるタイミングが大切になってくるのじゃ」


 なるほど、一昔前に流行ったアレだな。

 その一昔前に流行ったやつの限定版筐体が、中古屋で売られてるのを見かけて、悲しくなった思い出があるわ。


 しかし、まぁ、なんというか。


「俺ならお前なんぞと二十四時間一緒に居たいとは思わないがな」


「のじゃ!? なんなのじゃ、いきなり、そんな藪蛇な!!」


「うん、もう既に、帰りたい気分で僕はいっぱいですよ?」


「妾だって、おぬしと四六時中一緒だなんて、冗談ではないわ!!」


 その割には、最近家に入り浸ってないか。


 言ってやりたいところだったが、獣相手にやっきになっても、虚しいだけ。

 俺は、発売されたら買ってやるよと、大人な言葉を返すにとどめた。


「のじゃのじゃ。殊勝な心掛けなのじゃ」


「ちな、タイトルは?」


「うん? 確か、タイトルは――そう、、なのじゃ」


 またなんか違うゲームになったな、それ。


 まぁ、妖怪には違いないが、こいつ。

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