第38話 懐石料理で九尾なのじゃ

「おまたせいたしましたなのじゃ。まずは前菜、水菜と揚げ豆腐のサラダ、みりんソースがけなのじゃ」


「刻んだお揚げと水菜を合えただけじゃねえか」


 座敷に座る俺の前に手ずから料理を運んできたのは料理長。

 白い板前服を着こなしているが、もっさりと伸びるその尻尾は隠せない。


 聞き覚えのある間延びした喋り口。

 言うまでもなく、のじゃのじゃ娘こと、九尾の加代である。


 今度は板前になったか。

 本当、節操ないな、この九尾娘。


 そして、ぶれないな。


「あくまで油揚げ押しとは、おそれ居るぜ」


「のじゃ、そんなことはないのじゃ。妾はお客様に、本日提供できる最高の料理を提供しているだけなのじゃ。それがたまたま、この油揚げだった、それだけのこと」


 嘘付け。

 お前、どうせこれから、アホの一つ覚えみたいに、油揚げのフルコースが始まるんだろう。分かっとるっちゅうねん。


 たまに奮発して良い飯でもと思ったら、とんだ話だよまったく。

 どうして五千円も払ってまで、油揚げをたらふく食べなくちゃならんのだ。


「続いて、旬の油揚げの刺身になります、なのじゃ」


「油揚げに旬があるのか知らなかった」


 だから、違うのじゃ、と、佳代の奴は言う。

 だが、どっからどう見ても短冊に切られただけの油揚げである。


 これが刺身だと。

 馬鹿を言うな。


 脂っこくてとても食えたものではない――。


「なんじゃ、食わんのか?」


「食える訳ないだろう。お前、油揚げを単品でなんて」


「お好みでみりんしょうゆで食べると美味しいのじゃ?」


「美味しいのじゃ、じゃねえよ!!」


 その後も、油揚げの納豆包み焼き、油揚げの煮物、油揚げのステーキと続いて、油揚げの炊き込みご飯が、加代の手ずから俺の前へと運ばれてきた。


 一応、五千円も払った身である。


 どれだけ味とオチが分かっていようとも、それに箸を伸ばした俺。

 最後の炊き込みご飯を食べ終わるころには、もうすっかりと、油揚げの油成分で胃がもったりしていたのだった。


「最後にデザート、おいなりさんのアイスクリームなのじゃ」


「ただの冷凍おいなりさんじゃねえか!!」


 もう、勘弁してくれ。

 お揚げさんはもうしばらく結構だよ。

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