第36話 たまには休日でのんびり九尾なのじゃ

「のじゃのじゃ。人間も粋なことを考えるのう。勤労感謝の日とは乙なものよ」


「まぁ、そんなの関係なく働いてるのが日本人だがな」


「――のじゃぁ」


「国が定めた休みの日にも、何が悲しいかな自分から働くんだから病気よな」


「そういうお主は、今日は仕事はいいのかえ?」


「休日は休むもんだろうが」


「というか、明日も明後日もお休みのマークがカレンダーに」


 いいんだよ。


 ちょうど派遣されていたプロジェクトで納品が終り解放されたのだ。

 どこぞのアルバイト狐さんと違って、こっちはみっちりと年末までスケジュールを組まれているのだ。


 たまに飛び石を無理くりつなげて、大型連休にしたって罰はあたらん。


「のじゃぁ。うらやましいのじゃ。こんなにたっぷりお休みがあって」


「おまえなんかは毎日が日曜日みたいなもんだろ」


「そんなことないのじゃ。加代さん、毎日夜遅くまで頑張ってお仕事しとるのじゃ」


 まぁ、アルバイトは責任がない分、時間やら何やらを要求されるからな。

 ほんと余裕のない世の中になったもんだ。


 こんな相手のことを思いかんばる余裕のない社会にいったい誰がしたんだろう。

 と、愚痴ってみたところでどうなるもんでもない。


「のじゃぁ、そんな話をしていたら、どっと疲れて来たのじゃ」


「朝からお前、こたつでごろごろしてるだけだろ」


「桜、ちょっと、わらわの肩でも揉んでたもれ」


「いやだよボケ、俺も疲れてんだ」


 なに、ただとは言わんぞ、と、加代。


 もっそりと彼女は炬燵の中から体を起こすと、よいしょと、尻をめくる。


 わぁ、バカ、なにしてんだ。

 柄にもなく慌てた俺の前で、ぽふり、と、軽い音。


 見れば狐の尻から九本の尻尾が伸びていた。


「肩を揉み終わった、わらわの尻尾を好きなだけモフるがよいぞ!!」


「いや、俺、そういう属性ないんで」


「ふかふかのもふもふで、夢心地じゃぞ。日ごろの疲れもふっとぶぞ!!」


「だったら自分で使えばいいんじゃないですかね」


「なんで妾がモフってやると言っておるのに素直に受けんのじゃ、このたわけ!!」


「なんでもモフられなくちゃならんのだ!! 俺はいらんと言うとろうに!!」


 人間が全部、もふもふしたものに癒されると思ったら大間違いだ。

 血の通わぬ鋼鉄の機械に心を癒されるやつだっているのだ。


 いやまぁ。


 別に嫌いとかではなく、単に、やりたくないだけだが。

 なんでこいつの尻尾をもふもふしなくちゃならんのだ。恥ずかしい。


 いや、その、うん。

 照れとかそういうんじゃないからな。勘違いしないでくれよ。ふん。

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