第30話 不人気打ち切りで九尾なのじゃ

「というわけでですね、加代さん主役のケモミミ現代劇、おいでよのじゃバッバの里は、視聴率低迷により打ち切りとなります」


「のじゃぁっ!! ま、待ってくれなのじゃ。わらわ、これで遅咲きタイプなのじゃ。だから、今はぱっとしなくてもあと数ヶ月、いや、一年待ってくれれば」


「待てません。番組は視聴率が命。取れない人に割く時間も、枠もありません」


「のじゃぁ!!」


 こっぴどく言われている狐娘を傍目に、俺はコーヒーを啜る。


 ここは市内の珈琲店。

 ご想像に違わず、SMLではなくトールがどうとかで、気取ったお店の中である。


 久しぶりに美味いコーヒーでも飲もうかと店に入ればこれだ。


 はい、またお狐さんは、芸能関係の仕事をしていらっしゃるのね。


 まぁ顔は化けてるだけあって人並み以上。

 だが、いかんせん、胸がなんとも残念だからな、こいつは。


 と、思った矢先にこちらに飛んできたのは、空の紙コップだった。


 おのれ、気づいていたか。

 俺の失礼な視線と思惑を察して、ツッコミを入れるとは、なかなかやるのう。


 しかし、それならそうと俺の視界からさっさと消えてやってくれないかね。

 こっちも静かにコーヒー飲みたいってのにさ。


 まったく。

 どうしてこいつはいつも、俺を巻き込まないと気がすまないのだろう。


 とはいえ。主演番組の打ち切りとは可哀想にな。


「一生懸命頑張るのじゃ。ちょっと危なかったり、エッチな企画も、勉強させてもらうのじゃ。だから、もうちょっと、あとちょっと、続けさせて欲しいのじゃ!!」


「放送局は貴方の私物ではないのですよ。頑張った頑張ってないの問題ではないのです。そもそも、今でも貴方、そうとう危険なことやってるじゃないですか」


 九尾だからな。

 しかし、だからって、平然とやらすなよ。


 散々利用するだけしておいて、用がなかったら切り捨てるってのも、それはなんか違うんじゃないのか。それを承知でやっている、加代のやつが悪いかもしらんが。


 のじゃぁ、と、力なく俯く加代。


 その頬には光る雫が流れていた。


「来週の収録で最後になります。番組の最後に、挨拶のシーンは用意しておきますので。少ないですが、ファンへのお別れの言葉を考えておいてください」


「――のじゃ、分かったのじゃ」


 おとなしくプロデューサーと思しき相手の言葉を受け入れた加代。

 俺よりも、彼女のほうが大人だったか。


 まぁ、三千年生きた狐だ。

 そりゃそうか。


 それじゃぁ、と、加代を残して去っていく番組の責任者。

 残されたお狐娘の肩を、俺は思わず叩いていた。


 そして、なんかおごってやるよと、柄にもなく、優しい言葉を彼女にかけた。


「のじゃ。大丈夫なのじゃ。こういう目には結構なれとる、なれっこなのじゃ」


「知ってる」


「けど、けど、せっかく人気出てきて、顔も覚えて貰って、ちょっと有名になったかなとおもった矢先。あんまりなのじゃ――」


 ぐしぐしと、涙で汚れた顔を手の甲で拭う九尾娘。


 なにをやってもダメな狐が、どうしてそれでも笑っていられるのか。

 なんとなくわかった気がした。


「――のじゃ。やめやめなのじゃ。泣いてても仕方ないのじゃ。命があるだけ丸儲け、次の機会に向けて、努力有るのみなのじゃ」


 そして、底抜けに前向きな理由も。


「して、なんでもよいのかのう。わらわ、伏見稲荷ですずめでも食べたいのじゃ」


「そんな所に行ってる暇ねえよ。いなりずしで我慢しろ」


「じゃぁ、中に具が詰まってるちょっと高級なのがいいのじゃ」


「好きにしろよ。まったく」


 今日くらいは、お前のわがままに付き合ってやるよ。

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