第27話 狐耳アイドルOK2Nで九尾なのじゃ

「みんな、今日は私たちのライブに来てくれてありがとう」


「声援しっかり届いてるよ」


「こんな大きなステージに私たちを連れてきてくれて、本当に本当に感謝してます」


「これからも皆で楽しい夢を追いかけられるよう、私たちは頑張っているから」


「応援、よろしくなのじゃ!!」


 ドンとはじける銀紙バズーカ。


 色とりどりのレーザービームに照らされて、踊りだすのは狐耳の娘達。

 それと同時に、ここ、県内屈指の多目的アリーナを埋め尽くすファン達が、獣のような歓声をあげた。


 彼女達は、今をときめく狐耳アイドルOK2Nオキツネ


 平均年齢613歳。

 驚異的なご高齢アイドルグループである。


 しかしながら、見た目はどれもこれもティーンエイジャー。

 最近の化粧の技術というのも随分と進歩したものだ。


 いや、まぁ、狐だから、ぶっちゃけどんな姿にも化けられるか。


「化け狐をコンセプトにしたアイドルグループに、本物の化け狐が混ざっているって――おまえ、それはいったいどうなのよ」


 複雑な気分で舞台を眺める俺。

 例によって、まったくなんの前触れもなく、我が家に遊びに来た加代。


 そんな彼女は、まるでなんでもないような感じで、今度アリーナでライブやるから見に来いと、俺にとんでもないことを言った。

 そして、今、ここに至るという訳である。


 なんでもやる奴だとは知っていたが、まさか、アイドルにまで手を出すとは。


 しかも年長者としてちゃんとリーダーをやっている。


 胸がなく、年甲斐もなく、職能もない奴なのに。

 やれやれ、その頑張っている姿には、アイドルとしての素質――応援したくなる健気さが、しっかりと現れていた。


 やるじゃないか、加代。


「のじゃ!! 皆、ありがとうなのじゃ!!」


「さて、ここで、皆さん、お待ちかね。待望のメンバー総選挙の発表だよ」


 なに?

 最近流行なのか、そういうの。


「今回の人気投票で最下位になったメンバーは」


「残念ながら、グループから卒業」


「普通の女の子に戻ってもらいます」


「のじゃぁ、アイドル業界は実力社会。厳しい世界なのじゃ」


 おいおいおいおいお。

 待て待て待て待て。


 お前、加代、それ完全にフラグじゃないか。

 なに暢気に、関係ないみたいな顔してるんだよ。


「誰なのじゃ、誰なのじゃ? 首になっちゃうのはいったい誰なのじゃ? のじゃ、けど、よくよく考えると、ちょっとお得かもしれないのじゃ」


「どういう意味なのババアリーダー?」


「ついにボケたのオバハンリーダー?」


 そしてメンバーも手のひらを返したように扱いが雑。


 ひどい、こんなぼろくそに言われるリーダー、某大工アイドルの番組くらいでしか見たことないっての。


 あっちにはまだ、メンバーやスタッフからの愛が感じられる。

 けど、こっちにはまったくそういう感じがない。

 しかも薄々、クビになるのをメンバーが勘付いてる節がある。


 アカーン、加代、アカーン。

 これ、アカン奴やで。


 思わず他人事だというのに血の気が引いてしまった。

 そんな俺の前で、加代はまた、得意のドヤ顔をオーディエンスに向けた。


「だって、クビになってしまえば、一気に出世して――九尾の狐になれるのじゃ」


 ドヤ。

 それはこの小説のタイトルだっての。

 くだらない。


 オヤジギャグならぬオキツネギャグの空寒さに、一同、シンと鎮まり変える。

 のじゃ、のじゃ、と、辺りの反応をうかがうのじゃ狐。


 その背後。

 でかでかと、最下位のタイトルと共に、彼女の満面の笑顔が映し出された。


 まるで、その滑る瞬間を待ってましたといわんばかりに。


 良い顔で笑ってるだろ。

 こいつ、このグループで不人気ナンバーワンなんだぜ。


 前言撤回。

 ダメな狐は何をやらせても駄女狐なのだ。


「の、のじゃ!? ちょっと待ってわらわがクビ!? センターなのに!?」


「ドンマイ、ババアリーダー」


「さよなら、オバハンリーダー」


「元気でね、アラスリーダー」


「九尾になれてよかったね、不人気センターナンバーワンリーダー」


「の、のじゃああああっ!!」


 あんまりじゃないだろうか。

 こればっかりは、流石に俺も狐娘に同情を禁じえなかった。

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