第26話 ビューティビューティ。ビューティ狐で九尾なのじゃ

「のじゃあ!! のじゃぁあああっ!! はやく、はやくタッチするのじゃ!! 交代なのじゃ、頭がちぎれちゃうのじゃぁっ!!」


 リングの上でヘッドロックをかまされて、無様に暴れるあほ狐。


 普通プロレスというのは、技をかけられたら受けるのが美学。


 なのだが、いかんせん。

 バイタリティ溢るるなんでもアルバイトお狐さまには、そんな美学はわからない。


 金曜日の夕方。

 久しぶりに仕事を定時きっかりで上がれた俺は、そのまま自宅アパートに帰る気にもなれず、たまたま勤め先近くでやっていた女子プロレスの興行に顔を出した。


 まぁ、筋肉質の本格派女子プロレスラーを眺めるのは趣味ではない。

 だが、グラマラスなアイドルレスラーを眺めるのは、なかなかによい酒の肴だ。


 金曜日のたわ――げふんげふん。


「しかし相変わらず揺れる要素ねえな、あのクソ貧乳まな板摩擦抵抗無しオキツネ」


「お主!! こんな時までわらわに喧嘩売るとか、どれだけ性格が悪いのじゃ!!」


「事実を言ったまでだ。おーい、そして、また技が変わるぞ」


「って、のじゃぁっ、やめてやめてなのじゃ!! 人間の関節はそんな方向に曲がら、のじゃじゃじゃじゃじゃ!!!!」


 大丈夫。

 お前、人間じゃないだろう。


 関節なんて、幻術で出した仮初のものに過ぎないじゃないか。


 化け上手の狐が断末魔を上げる。


 それを聞きながら呑むビールの、美味いこと美味いこと。


 うまい、もういっぱい。

 俺は売り子のお姉ちゃんを呼び寄せると、ビールをおかわりした。


 と、そんなことをしている間に、相棒のドロップキックで解放されるアホ狐。


「のじゃぁ。なんて技をかけてくるのじゃ。素人相手に大人気ないのじゃ」


「いや、レスだろ」


「しかしここから反撃なのじゃ。見ておれ、わらわの必殺、尻尾卍固めで、二人まとめてギブアップ、なの――」


 そういきまいていたのじゃ狐の後ろに忍び寄る、敵の魔の手。

 場外乱闘もプロレスの華。それは女子レスでも変わらない。


 見事、後ろから羽交い締めにされた九尾の狐。


 その尻尾を、足とともに左右に分けて――。


 股先。


 ならぬ。


 尻尾裂き。


「のじゃあっっ!! やめやめやめやめやめるのじゃじゃじゃじゃ!!」


 思わずビールを吹き出して大爆笑。

 

 いいぞいいぞ。

 もっとやれ。


「のじゃっ!! 取れちゃうのじゃ、尻尾とれちゃうのじゃぁっ!! やめてたもれ!! なんでも、なんでもするから、勘弁してくれなのじゃぁっ!!」


 アルバイトでも、やっていいことと、悪いことがあらぁな。

 吐き出してしまったビールをタオルでふき取りながら、俺はまたオネーちゃんに、ビールのお代わりを頼むのだった。


 いやぁ、今日はあれだね、いいフライデーナイトだ。

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