第25話 ブラックジャックで九尾なのじゃ

「七と九と四で二十なのじゃ。お主は?」


「――バーストだよ」


 にょほほほ、狐娘の癪に障る笑い声が響き渡る。

 俺は右手に握りこんでいたチップを投げ出した。


 あぁもう、やめだやめだ。

 ありきたりな台詞を吐いて俺は机に突っ伏した。


 ここは太平洋。

 誰のモノでもない公海の上。


 日本国の法律から解放されたこの船は、現在、船籍のあるごにょごにょな国の法律により支配されている。


 したがって、俺が先ほどまで握り締めていたチップが、1チップ何ドルで日本円でどうなろうと、それは預かり知らぬところ。


 すべて為替と株の値動きによって決まることである。


 つまりだ。

 俺は今、どういうことか、船上カジノにやってきていた。


「まさか会社の付き合いで、こんな所に招待されるとは」


「お主もいろんな知り合いがおるのう」


「俺はただ、最新のアダルト麻雀ゲームのプログラムを造っただけなんだが」


 と、向こうのテーブルで、なにやら騒がしい声がする。

 じゃらりじゃらりと聞こえてくる牌の音。


 そう、俺がつくったそれは、まさしく麻雀ゲームにありがち、積み込みなどの不正ができるような、そういうモノだったのだが。


 不自然に先ほどから、嶺上開花で卓の親がアガるのは――はたして偶然だろうか。

 それとも親のアゴが某漫画みたいに長いからだろうか。


「分からない、俺が何をしてしまったのか、分からない」


「なんじゃ、そんな落ち込んで」


「そしてなんでこいつがこんな所に居るのか分からない」


 帰れよオキツネ様。

 日本の八百万の神だろう。

 海の上に出たら、信仰心を保てなくなって、狐にもどれよフォックス。


 まったくそんな素振りも見せず、ケロッとした顔してディーラーやりやがって。


 給料は稼げないくせに、金はむしりとるのな。

 ホント、嫌な奴。


「なんなのじゃ、勝負に負けたからって、わらわを恨むのは筋違いなのじゃ」


「それに関しては文句はないが、お前、もうちょっとローカライズしないのか」


「郷に入れば郷に従えということか。みみっちいことを言う男じゃのう」


「うっせえ」


「ちと、見損なったぞ。どこへ行っても、わらわわらわじゃ。場所にあわせて自分を偽るなど、そんなものは小物のすること」


 おかしいなぁ。

 有名な九尾の狐は、インドと中国と日本で名前を変えてた気がするけれども。


 と、そんな所に、いかつい外国人さんがやってくる。

 のじゃ、と、肩をすくませた加代。


「へ、へろー、ハブアナイスデー、アイアム、カヨチャン、オキツネ、イチバーン」


「偽ることに失敗してんぞアホ狐!!」


 怪しい英語を発してあたふたと接客をする狐娘。


 はたして日本に帰り着くまで、サメの餌にならずに済むだろうか。


「ユーチューブ、アーハーン、コンブチューユ、ソーメン?」


「無理かなこれは」


「YES!! ABURAAGE!!」


「テンパリすぎだろ!!」

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