第24話 社長ナイスショット!! 九尾なのじゃ!!

 派遣会社勤めというのはなかなか特殊だ。

 世間一般の会社と違って、同僚と顔を合わす機会が滅多にない。


 それこそ、今年入った新入社員、中途入社の社員の顔など覚えていない。

 どころか、退社していった同僚の顔さえ分からないなんてざらである。


 俺もまた、同期入社の社員の顔を半分も覚えていない。


 そんな中である。

 社員同士の繋がりを深めよう。

 なんて言って、俺が一応所属する部署の新部長がイベントを企画したのだが。


「どうしてゴルフ」


 今回の親睦会はゴルフに決まりました。

 全員参加なので、業務などのやむを得ない事情がない限りは参加するように。


 とまぁ、そんな文面のメールが社員全員に送付されたのを見て、俺は業務中にも関わらず軽い眩暈を覚えた。

 いっそそのまま倒れてしまえばよかったかもしれない。


 このつらい現実とも。ゴルフ会とも。

 そしてなにより、このビターブラックな会社とも、おさらばできたかもしれない。


「いやぁ、社長お見事ですな」


「いやいや専務もなかなか」


「しかし親睦会というのもよいものですな」


「緑に囲まれて、気持ちのいい汗を流し。デスクワークの疲れなど忘れて、まさしくゴルフはうってつけのレクリエーション」


 そしてやって来た当日。

 

 案の定、役員ばかりの団結が高まるゴルフ会に、俺はしぶしぶ参加していた。

 働き盛りの係長クラスのオッサンどもは、デスクワークの疲労もあってか、ひいひい言っててもはやパターゴルフ状態だよ。


 主任格など、もはやパターを握る気力すら感じられない。


 もうちょっと、一般社員のことも考えろ。

 そんなんだからうちの会社はダメなんだよまったく。


「おや、なんだか向こうのほうが騒がしい」


「受付で聞いたのですが、どうやらプロゴルファーが来ているみたいですな」


「練習ですか。それは是非ともお手並み拝見といきたいところ」


 そしてプロゴルファーくらいで、まぁはしゃいじゃってもう。


 そんな珍しいものでもないだろう。

 知らんけれど。


 俺なんか、普通に生きてたらまず眼にすることのない、狐娘に、ここ最近ずっと鉢合わせてばっかりだってえの。



わらわは狐なのじゃ!! プロゴルファー狐なのじゃ!!」


「な、こんな調子で」


 そろそろ出てくるんじゃないかとは思っていたよ。


 なるほど今度はプロゴルファーですか。

 ほんと、お前さんのなんでもチャレンジする精神には、溜飲が下がるよマジで。


「ほほう、プロゴルファー狐ですか」


「女流ゴルファーですな。まだ若いのに珍しい」


「しかしめんこい娘さんですな。ちょっとしたアイドルみたいじゃ」


「じゃがのう。いくら可愛くとも腕前はどうかのう」


 どれどれとアホ狐が構える様子を眺める、社長を筆頭とする経営陣。


 ろくなことにならんだろうな。

 そう思いつつ、俺もまた視線をプロゴルファーを自称する狐娘へと向ける。


 元ネタへのリスペクトなどまるで感じさせない、いまどきの可愛らしいゴルフウェアに身を包んだオキツネ様は、すっとドライバーを取り出すと構える。


「秘打!! 禿げ包み!!」


 コキン、と、打ったゴルフボールが真っ直ぐにこちらに向かって飛んでくる。

 結構いい音がしたそれだったが、これはOBだな。


 当たってはかなわないと頭を下げたその時だ。

 一陣のつむじ風が、俺たちを襲った。


「ひゃぁ」


「うひょ」


「いやん」


「どしぇ」


 風に煽られてゴルフ場の空に舞い上がったそれは茶色いふさふさ。

 見れば、四つのかつらが青空にたなびいている。


 そこにお見事プロゴルファー。

 オキツネ加代さんの打った球がヒットした。

 かと思えば、流れるようにして方向転換。

 

 彼女が立っているコースのカップに向かって飛んで行った。


「見たのじゃ、これぞわらわの必殺打法、禿げ包み!! ゴルフ場に来る人たちの平均年齢と、自尊心の高さを利用した必殺技なのじゃ!!」


「もっと不確定要素の少ない必殺技にしろよ!!」


 そしてお前、もうちょっと、穏当な必殺技にしておけ。


 企業の社長さんやら役員連中怒らせてどうすんだ。

 大切なスポンサーさんたちだろうに。

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