第20話 エクササイズで九尾なのじゃ

「コントゥー、コントゥ―」


「……」


「はい、大きく右に腰を回して、そのまま停止――なのじゃ!!」


「なのじゃ!! じゃねえ、なにやっとんのだお前は!!」


 通い慣れたスポーツジム。

 そこで、見た顔がなぜか人前でダンスをしている。


 ほれ見たことかオキツネ娘。

 彼女はどうして俺の前に、節操もなければバリエーションも豊富に現れてくれるのか。いいかげんこっちのツッコミもネタ切れなのだが。


「なんじゃお主こんな所で。スポーツなんて縁のない顔をしておいて」


「ほっとけ!!」


「お主こそこんな所で何をしておるのじゃ」


「縁がないから無理やり縁を作ってんだよ!! 悪いか!!」


 メタボリックシンドロームで、会社の検診に引っかかりました。

 会社付き合いで酒なぞしこたま飲んでれば、こういう身体になってしまうのだ。


 いいよなお狐さまは。

 毎日毎日、自由気ままなアルバイト生活で。


 ジム通いだって、週に一回と言わず自由な時間、タイミングでこれるのだろう。


 健康的に引き締まった腰。

 すらりと伸びたキレイな足。

 落とす肉すら見当たらない胸。


 一部を除いてまったくのムダがない。

 完璧な出来上がった体である。


 羨ましい。

 俺も人生一度でいいからそのくらいに体を絞ってみたいものだ。


 いや、待て。


「お前、化け狐だろう、エクササイズしなくても、化ければいいだけなんじゃ」


「シッ、それは言わない約束なのじゃ!!」


 あぁ、なるほど。

 こいついっちょ前に人様を騙してるって訳か。

 なるほど、さすが妖怪。


 納得できるか、と、俺は化け狐の耳を掴んだ。


「のじゃ!! ななな、何をするのじゃ、馬鹿もの!!」


「五月蝿え、化けの皮剥いでやる!! どうせちょっとでも気を緩めたらだらしない体になるんだろう!! このアホギツネめ!!」


「のじゃぁ!! やめるのじゃ!! 離すのじゃ!! 勘弁してくれなのじゃ!!」


 と、その時だ。


 ポン、と、加代の胸で何かが弾けたかと思うと、煙が辺りにたちこめる。


 煙が晴れて現れたのは――。

 どうしたことか、更に小ぶりに余計なものがなくなった、引き締まった胸板。


 うぅん、エクササイズ。


「そんな、加代、まさか、お前――男だったのか!?」


「そんなわけないのじゃ!!」


「けど、そのフラットぶりはいくらなんでも――」


「のじゃぁ!! 化け狐でも、元の肉体から盛れる量には限度があるのじゃ!!」


「つまり、盛ってあのカップ――」


「のじゃぁあああ!! それ以上いうでない!! このデリカシーなし男!!」


 はい、すみません。

 今回は全面的に私の落ち度でございます。

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