第19話 はーいカットOK九尾なのじゃ

「事務所でドラマの撮影とか、納期前に勘弁してくれよ」


 ぞろりぞろりと入ってくる、チャラけた服装の男女達。


 テレビなんたらだか局名までは知っちゃいない。

 だが、流石に芸能界関係だけあって華があって羨ましい限りだ。


 あれで俺より高給取りで、俺より高学歴なのだから。

 妬ましいやら、アホらしいやら。


 やれやれ、と、俺は派遣先だというのもはばからずため息を吐いた。


「のじゃ。では、最初のシーンなのじゃ」


 そして、聞き覚えのある声に俺は手を覆う。

 今回はお早い登場ですね、お加代さん。


「OLのかよ子が、給湯室でこっくりさんをしているシーンからはじめるのじゃ」


「はい、もうね、こういうおかしなイベントがあったら、間違いなくやってくるってね、そういうのは薄々感づいてましたよ」


 よーい、アクション、なのじゃ。

 そう、メガホンで叫ぶそいつは、やっぱりお前か、九尾の加代さん。


 そうかい、今度はドラマの監督ですか。


 普通こういうのは下働きからこつこつと積み重ねて、ようやく回ってくる仕事なんじゃないのだろうか。どうやったのかは知らないが、相変わらず、職を得る技能においては、天才的だなぁ。


「はい、OKなのじゃ!! 良い絵が撮れたのじゃ!!」


 そして、一発OKですか。


 ダメダメ。

 そんなんじゃ感情篭ってないよ。

 とか、自分のポンコツ振りを棚に上げて、ツッコめばいいのに。


 と、そんな風に呆れる俺の前で、加代達がなにやら機材の前に集まる。


 テレビ画面に先程の場面を映し出して、なにやら確認しているようだ。

 おいおい、OKだったんじゃないのか。


 デスクをさりげなく立ち、トイレに行く振りをして、覗き込んでみれば。


 そこには、かよ子の肩に浮かぶ、青白い顔をした獣の霊が。


「さすが、動物霊を撮影させたら、日本一の加代監督!! お見事です!!」


「のじゃのじゃ。なに、ちょっと仲間のオキツネを――じゃなかった、こっくりさんを撮るくらい朝飯前なのじゃ」


「これでホラーシーンが映えますよ。視聴率も二桁間違いなしです」


「のじゃのじゃ。やはり、本物の映像に勝る恐怖はないからのう」


 なるほどね。

 テレビ業界にはそういう需要もあるのか。


 どうやら、ドラマのホラーシーンのためだけに、臨時で呼ばれた監督らしい。

 まぁバイト狐にはお似合いの扱いか。


 ただ、自分の食い扶持のために、同朋をネタにするって。

 それはどうなんだろうかね。


「まぁ、わらわにかかれば、この手のホラーシーンで撮れないものはないからのう。どれ、それで、次はいったい何を撮ればいいのじゃ」


「えっと、次はですね。駅のホームで轢死して、頭と、胴体と、下半身に、三分割されちゃった、哀れな輪切り男の霊ですね」


 え、それは、と、加代の顔が青ざめる。


 ははん。


 さてはこいつ、霊は呼べても、それは自分と同じ動物霊だけなのだな。

 人間の霊は呼べないと見た。


 なんだいホラーシーンはまかせておけ、なんて大言しておいて。

 うぷぷと、思わず笑いがこみ上げる。


 と、そんな俺を目ざとく見つけて、振り返った加代。

 のじゃ、と、彼女がその瞳を光らせ、頭の耳をパタつかせた。


「そうじゃ!! あの男の顔を、青く塗って、CG合成するのじゃダメかのう!?」


「いや、それはちょっと……」


「けどけど、いかにも性根が捻じ曲がっていそうな顔をしていて、スクリーン映えしそうなのじゃ!!」


「あぁ、なるほど、確かに見れば見るほど性格のネジ曲がってそうな顔をしている」


「そうじゃろう、そうじゃろう。なかなか絵になると思わんか」


「おいこらぁ!! 人の顔がなんだってぇ!? 勝手に人様を変な話に巻き込んでくれるな、この駄女狐!!」


「「のじゃあああ!! 怖いのじゃ!!」」


 サポートスタッフと一緒に叫ぶ加代。


 馬鹿いえ、そんな、怖いわけなかろう。

 というか、なんで化け狐に人間様が恐れられなくちゃならんのだ。


 うん。


 怖いはずないだろう。俺、普通の人間だもの。

 ちょっとトイレに行って確認してこよう。

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