第18話 オールドファッション九尾なのじゃ

「いらっしゃいませなのじゃ。ただいまドーナツ100円セール実施中なのじゃ」


「年中ドーナッツ屋って100円セールやってるイメージあるよな」


 なんじゃまたお主か、と、嫌な顔をする九尾の狐。


 もはやそういう顔をする気も失せるほどのエンカウント率。

 無視して、俺はずらりドーナッツが並んでいる棚の前に立った。


 悪いか。

 男が一人でドーナッツ食いにきたら。


 そういう気分の時だって人間あるものだろう。


「男が休日に一人ドーナッツとか……」


「なんだよ、いいだろ」


「ぐすん、寂しいやつなのじゃのうお主も」


「狐がドーナッツ屋でバイトしてるのもどうかと思うがな。というか、絡んでくるのかよお前、そんな顔しておいて」


「そりゃ商売じゃからのう」


 こちらのドーナッツがおすすめなのじゃ。

 一緒にドリンクはどうなのじゃ。


 しっかり商売してくるオキツネ娘。

 流石に色んな商売してきただけあって、こなれているのが妙に腹立たしい。


 どうしてそれですぐクビになるのか。

 そんなことを思いながらも、俺はいくつかのドーナッツを皿の上に載せて、レジスターの前に立った。


「全部で五百四十円になりますのじゃ」


「五百四十円っと」


「ドリンクも買って、ここで食べていけばいいのじゃ」


「流石にいい歳したおっさんが、ドーナッツ屋でイートインするのはどうなのよ」


「……分かった、もうこれ以上何も言わんのじゃ」


 と、言ってすぐさま、ポイントカードはお持ちですか、と、尋ねるオキツネ。


 そんなもの持っている訳がないだろう。

 いい歳したおっさんが。


 ないぞとすぐに首を振る。

 すると、すぐにおつくりできますが、と、加代が食いついてきた。


 いや、すぐにも何も、普通にいらない。

 そんなの持ち歩く気もないし、またすぐここに来る予定もない。

 持っていてもこちらになんのメリットもないのだ、何故造る必要がある。


「いらん。適当にしてくれ」


「分かったのじゃ」


 と、どこから取り出したのか、オキツネ。

 カードを取り出しそれを挿入する。


 おい、お前、それって。


「にょほほほ、これで10ポイント溜まったのじゃ。一食分、浮いたのじゃ」


「お前、それ、やっていいのかよ」


「大丈夫なのじゃ。ここではポイント使わないから、バレないのじゃ。オキツネが人間社会で生きるための知恵なのじゃ」


「そういう問題かよ」


 というかひもじくてもプライドというものが。


 あぁ、ないか、こいつ、元は畜生なんだものな。


「賞味期限が切れたドーナッツ廃棄処分するのと同じ理屈じゃ。食べられるのに要らぬというなら頂く、ポイントつくのに要らぬというなら貰う、それだけのこと」


「たくましいなぁ流石に都会に生きる狐は」


「にょほほほ。そんなに誉めてもなにも出んぞ」


 いやいらんよ。

 出てくるといっても、どうせお前、それ廃棄品なんだろう。


 人間様の姿になってまで、やることがゴ――廃棄食品漁りとか。

 動物の習性というのは恐ろしいものだな。

 

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