第17話 OKITSUNE入ってるで九尾なのじゃ

「こちらOKITSUNE社のハイエンドモデルCPU『KON k7』を搭載した、オフィスノートなのじゃ」


「へぇ」


「表計算からプレゼン、ドキュメント作成にと、なんでもできる優れものなのじゃ」


「OKITSUNE社? 聞いたことない会社だな」


「そんなことないのじゃ、有名なのじゃ。今世界で一番売れてるCPUメーカーなのじゃ。お客さん不勉強ですぞ、なのじゃ」


 俺も聞いたことないんだけれどな。

 じとりした視線を、接客中のオキツネ娘に飛ばす。


 あのアホ娘、ようやくビール工場で定職にありついたかと思いきや、またクビになりやがったようだ。


 まぁ、それは予定調和として。


「このPCショップも。あんな機械に悪そうな人員をバイトによく採用したもんだ」


 その前に頭も悪そうだが。

 とも、言いたかったがやめておいた。流石にそこまで言ったら可哀想だ。


 しかし。

 なんでか知らんが、職にはありつけるんだな、あのオキツネ娘。

 そして、いきつけのPCショップで姿を目撃することになるとは、世間も狭い。


 うぅん、と、唸るお客さん。

 彼は難しそうな顔をして首を横に振った。


「いや、やっぱりもっと安いのにするよ」


「え、そんな。待つのじゃ。それならもう一つ、スペックを落とした」


「あんまりマイナーなメーカーだと、壊れたときの保障が面倒そうだし。ごめんね」


 のじゃぁ。

 哀れ、まんまと客を逃してオキツネはしょぼくれた。


 ざまぁない。

 と、笑ってスルーするのが俺なのだが、流石に長い付き合いだ。


 残念だったな。

 後ろから彼女にそんな声をかけるとその肩を叩いた。


「なんじゃお主か」


「なんじゃとはなんじゃ。人がせっかく慰めてやろうというのに」


「のじゃ!? ちょっと待って、なんでお主のような、アウストラロピテクスも意思疎通に失敗しそうな奴が、こんな文明の極みの地へ!?」


「おい、慰めてやろうと思ったのにおい。散々お前、俺の仕事場に邪魔しに来てただろうが。本職のこと考えろや、このアホ狐」


「仕事場――養豚場じゃったかのう? 主に、養われるほう」


「どつき倒すぞ!!」


 哀れむんじゃなかった。


 所詮畜生、考え方が人間と違うのだ。

 犬猫鳥獣の類に対して、どうして人間と同じ感情を抱いたか。


 俺は強く己の不明を恥じた。


「というか、何売ってんだよお前。またそんなショーもないオキツネ製品作って」


「ショーもなくないのじゃ!! これはオキツネ界の叡智の結晶、高性能ピュータなのじゃ!!」


「駄洒落かい」


 狐にそんなたいそうなものが作れたら、ビルもゲイツも苦労せんわ。


「ふふん、お主のような未開人には、このコンピュータのすごさが分からんのじゃ」


「だから俺の仕事をなんだと――じゃぁ、そのコーン7だっけ?」


「『KON k7』なのじゃ!!」


「なんでもいいよ。そのCPUのアーキテクチャーはなに? いってみそ」


 そ、それは、と、言いよどむ加代。

 どうして俺より文明に明るいはずのオキツネ様が、CPUのアーキテクチャの一つくらい答えられないのだろうか。


 それはちょっとおかしかろう。


「ん、どうした? 文明に明るいんだろう、近代狐なんだろう、加代さんよぉ」


「ふぉ、ふぉ」


「ふぉ?」


「ふぉ、Foxフォックス86なのじゃ!!」


「32bitアーキテクチャかよ!!」


 時代遅れもいいところじゃないか。


 流石はのじゃのじゃお狐ババアだけあるな。

 回答に時代を感じるわ。

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